<インタビュー・時の人>エイビット 代表取締役 檜山竹生

特集

2011/12/01 11:20

 エイビットは、PHSチップ、有線・無線デジタル通信システム変調器、通信計測機器など、通信関連ベンダーが製品・サービスの品質を高めるための機器を提供している。法人顧客がメインだが、今年12月、自社ブランドでコンシューマ向けPHSを発売する。これまでもコンシューマ向けに製品を提供してきたが、今回の製品によってコンシューマ向け事業を本格化。ブランドの浸透に力を注ぐ。法人からコンシューマへ、なぜ大きく舵を切ろうとしているのか。檜山竹生代表取締役に聞いた。

ユニークなPHSでブランド浸透へ
クラウドサービスの提供も視野に



◎プロフィール
1958年3月生まれ。東京都東久留米市出身。工業高等専門学校在学中にコンピュータ設計事務所を起業し、ミニコンピュータの小型高性能化に成功、大手計測器メーカーに技術の高さを評価され、製品を納入する。パソコン開発の黎明期を経て、85年に通信技術会社のエイビットを設立し、代表取締役に就任。現在に至る。

Q. PHSの新製品を出し、コンシューマ向け事業に本格的に乗り出した理由は?

A. 「PHSの原点回帰」という表現がふさわしい。多くの端末メーカーがスマートフォンを発売し、携帯電話を含めてモバイルフォンの市場は競争が激しくなっている。そんななか、ウィルコムが(ソフトバンクグループとして)再スタートを切り、ビジネスを拡大しようとしている。今がPHSを広めるチャンスと捉えて新製品を発売した。PHSチップを中心に、当社は古くからPHSに携わっている。その意味では、「執着」「執念」という言葉がぴったりなのかもしれない。 


Q. 新製品は、ストラップとしてスマートフォンに付けられる「ストラップフォン」、固定電話として使える「イエデンワ」、未就学児童向けの「安心だフォン」と、ユニークなものが多い。

A. PHSのユーザーを増やしていくために、特徴ある製品を出したいと考えていた。ストラップフォンの「WX03A」は3年ほど前に発表し、PHSユーザーから「いつ発売するのか」といった問い合わせが多かった製品。今が適切なタイミングと判断して発売に踏み切った。

Q. 家電量販店など、売り手の反応はどうか。

A. 家電量販店などの声は、基本的にウィルコムから聞いているが、総じて高く評価していただいている。ユーザーからの問い合わせも多く、数あるモバイルフォンのなかで目立つ存在になることは間違いない。

Q. コンシューマ向け製品の位置づけを含め、今後どのような方向に進んでいくのか。

A. これまでのPHSチップを含む半導体ビジネスはもちろん継続していくが、新しいビジネスの柱としてコンシューマ向け事業の拡大を視野に入れている。

Q. ブランドの認知を高める策は?

A. 新製品として発売したPHSは、「ファミリー」を軸に置いている。さらに、ストラップフォンでは「2台持ち」、イエデンワでは「高齢者」、安心だフォンでは「セキュリティ」をテーマに据えた。引き続き、この「ファミリー」を軸にテーマを広げてラインアップを拡充していく。

Q. コンシューマ向け事業の本格化による売上目標は?

A. 現状は25億~30億円の売上規模だが、3年後には100億円規模にまで引き上げたい。実は、端末だけでなく、クラウドサービスの提供も検討している。当社は、法人向け事業でデータセンターを保有している。それを使って、サービスを創造していく。提供の時期や、どのようなサービスを提供していくのかは、現在、詰めている段階だ。当社はこれまでは黒子の存在だったが、今後は「ABIT」というブランドをコンシューマに広め、表舞台を見据えていく。
・Turning Point

 エイビットには、「5年ごとにターニングポイントがやってくる」そうだ。10年前は、PHSチップの半導体事業に着手。5年前は、「デザイン志向の会社になる」というスローガンを掲げ、ユニークな製品の開発に取り組んだ。そして今年は、コンシューマ向けブランドを立ち上げた。

 檜山社長自身は、「99年に起きた台湾の921大地震が大きな転機だった」という。ちょうど出張で台湾を訪れているときに地震に遭遇したことで、帰国後、社内の災害対策を万全に整えた。今年3月の東日本大震災では、携帯電話回線がダウンするなかで、「PHSが何より役に立った」という。
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2011年11月28日付 vol.1409より転載したものです。内容は取材時の情報に基づいており、最新の情報とは異なる可能性があります。 >> 週刊BCNとは