05年10月に、アップルが動画再生対応の「第5世代iPod」を発売して以来、動画に対応する携帯オーディオでも、アップルの独壇場が続いていた。しかし、この3月、ソニーが初めて動画対応の「ウォークマン Aシリーズ」を発売し、選択肢の幅が広がってきた。そこで、動画対応モデルを中心に「BCNランキング」で携帯オーディオ市場の動きを探る。
●初登場のソニーはシリーズ別でトップ5入り、アップルは1、2位を占有


しばらくアップルの一人舞台が続いていた動画対応携帯オーディオ市場だが、新たな「プレーヤー」が登場した。ソニーが3月に発売した動画対応の「ウォークマン Aシリーズ」だ。ディスプレイは2.0型で、きょう体も画面もiPodより一回り小さいが、なによりフラッシュメモリタイプというのが大きく異なる点だ。そのほか、画面は縦横どちらの向きでも表示できるなど、動画視聴を意識した機能を搭載している。ランキングでは8GBモデルの「NW-A808」が3位で7%、4GBモデルの「NW-A806」が4位で6.5%、2GBモデルの「NW-A805」が5位で5.8%と、容量の多い順に人気があるようだ。


●シェア20%でソニーの出だしはまずまず、本番はこれから?
さて、携帯オーディオで全体では、現在どのくらいの動画対応モデルが販売されているのだろうか。06年10月-07年3月の累計販売台数で見ると、動画対応モデルのシェアは14.1%だった。また、この期間で携帯オーディオを販売したメーカー数全体では約82社。その中で動画対応モデルを販売したのは約31社だった。意外に多くのメーカーが動画対応モデルを販売しているにもかかわらず、販売台数の伸びは今ひとつ、というところだろうか。
ここで、06年10月-07年3月の動画対応モデルのメーカー別販売台数シェア推移を見てみよう。アップルが83.7%に始まって4か月間は80%台を維持してきたが徐々にシェアは下降し、07年2月には78.1%、そしてソニーの「ウォークマン Aシリーズ」発売月の3月には64.4%となり、ピーク時の4分の3程度になった。一方ソニーは、動画対応モデルを発売した07年3月には19.3%を占め、一桁台後半を維持してきた東芝を抜いて2位に躍り出た。いずれにせよ、まだメジャーメーカーの参加が少ないのが実情。参加メーカーがさらに増えることで、それぞれのシェアも変動していくことになるだろう。

ちなみに、動画再生機能がない携帯オーディオのメーカー別販売台数シェア推移は、直近の06年10月-07年3月では依然としてアップルが40%台をキープしている。07年1月に39%と一時的に落ち込むが、07年3月には48.7%まで盛り返してきた。対するソニーは、20%台の横ばい。アップル・ソニーの2社の後を追うのは松下電器産業、シャープ、ビクターなどで、いずれも一桁台を推移している。

●アップルと日本メーカー、コンテンツの種類や量は一長一短
動画対応モデルが今ひとつ地味な印象を受けるのは、2割に満たない販売台数シェアもさることながら、コンテンツ面での違いも大きい。音楽であればCDという大きなコンテンツ群があるものの、DVDはデータを気軽に取り込むことはできないため、CDに匹敵する動画コンテンツがないのが現状だ。となると、一般のユーザーにとってもっとも手軽なのは、コンテンツをダウンロードして楽しむことだろう。


東芝の「gigabeat」は、シネマナウジャパンが運営する映画ダウンロードサイト「シネマナウ」や、1000以上の動画コンテンツを扱う青山キャピタルの語学会話サイト「Language Channel」に対応する。また音楽配信サイトからの音楽ビデオなら、リッスンジャパンの「ListenJapan」(コンテンツ数は約3000)やレーベルゲートの「mora win(モーラ ウィン)」(同352)などからダウンロードができる。
アップルでは再生機器からコンテンツ配信まで一括で管理しており、誰でも簡単に「iTunes Store」から楽曲や動画をダウンロードできるメリットがある。ただし、動画に関していえば「iTunes Store」では、米国に比べ日本で扱うコンテンツ数は少ない。
一方、日本メーカーの携帯オーディオは、たくさんのコンテンツ配信サイトから豊富な楽曲や動画を入手できるよさがある。しかし、どの配信サイトが自分の持っている携帯オーディオに対応するのか、ファイル形式をいちいち確認しなくてはならないので手間がかかる。いずれの携帯オーディオを購入する場合でも、配信サイトとの兼ね合いで一長一短があることは理解しておこう。いずれにせよ、まだまだコンテンツが豊富であるとはいいがたいのが現状だ。
●市場全体では前年割れだが、売れ筋は2万円台のやや高めのモデル
それでは、携帯オーディオ市場全体の動きはどうなっているのだろうか。06年6月-07年3月の販売金額・販売台数の前年同月比推移を見ると、06年6月の時点ではすでに前年割れの水準になっており、以後、販売台数は100%前後、販売金額は80%後半から90%で推移している。一頃の拡大路線は一段落している状況だ。

またメーカー別では、06年10月-07年3月の販売台数シェア推移はアップルが50%前後で他社を引き離してトップを維持。その後をソニーが20%前後を保っており、アップル・ソニーの2強構造は続いている。3位以下は一桁台で松下、シャープ、東芝が争う形となっており、大きな構造の変化は見られない。

最後に、携帯オーディオの価格のトレンドをチェックしておこう。06年7月-07年3月の平均価格帯別販売台数シェア推移を見ると、1万円未満の安価なモデルが07年2月まで25-30%を推移して人気だったが、直近の3月では11.3%まで落ち込んでいる。1万5000円-2万円のモデルも同様、ピーク時の28.9%から06年10月以降は20%前後で横ばい状態。

ここで注目したいのは、2万円以上のやや高価なモデルが人気を集めている点だ。例えば、2万円-2万5000円モデルは06年7月に4%だったのが、06年10月で15%まで上昇し、07年3月には23.8%と価格帯別では一番の売れ筋となった。このほか、2万5000円-3万円、3万円以上のモデルも同様、07年2月から上昇に転じており、必ずしも「安いモデルだから売れている」というわけではないようだ。(WebBCNランキング編集部・井上真希子)
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