8月1日、シャープは「巨大」ともいえる65V型の液晶テレビを発売した。今、薄型テレビ市場の話題はこうした50V型を超える巨大テレビで持ちきりだ。しかしこれほど大きなテレビが本当に必要なのか? 市場性はあるのか? と、素朴な疑問も生まれてくる。そこで、現在の薄型テレビの売れ筋サイズの動向などをふまえ、より大型のテレビにシフトを急ぐメーカー各社にその戦略の狙いを取材した。

 8月1日、シャープは「巨大」ともいえる65V型の液晶テレビを発売した。今、薄型テレビ市場の話題はこうした50V型を超える巨大テレビで持ちきりだ。しかしこれほど大きなテレビが本当に必要なのか? 市場性はあるのか? と、素朴な疑問も生まれてくる。そこで、現在の薄型テレビの売れ筋サイズの動向などをふまえ、より大型のテレビにシフトを急ぐメーカー各社にその戦略の狙いを取材した。

●32V型が中心の大型テレビ市場

 現在、薄型テレビの売れ筋ラインは32V型。「BCNランキング」の薄型テレビ部門・機種別の販売台数ランキングでもシャープのAQUOSの32V型が同率でトップになるなど勢いがある。同AQUOSの13V型と首位で並んでいる形になってはいるが、総売上金額のランキングに目を転じると、32V型はダントツ。2位は37V型だ。



 この傾向は画面サイズ別の集計でさらに如実に現れており、台数でも金額でも最も売れているのは32V型。台数では20V型、26V型と中型のテレビが並ぶ一方で、金額では37V型が2位につけている。


 メーカー各社は、まだ価格競争の影響が小さくより利益率の高い大型モデルに消費者を誘導しようと躍起だ。そのためには、とりもなおさず、50V型を超える超大型のフラッグシップモデルを世に出すことによって、技術力を示し、サイズの底上げを図りたいところだ。そして今夏、メーカー各社の主戦場は50V型を越えた超大画面テレビ。火付け役は8月1日にシャープが発売した65V型の「AQUOS (アクオス)LC-65GE1」だ。

●「液晶のシャープ」が威信かけて発売した65V型の液晶AQUOS

 「どの方式が薄型大画面テレビの本命か? 答えは、回答するメーカーによって大きく異なるでしょう」――セイコーエプソンの木村登志男副社長は、決算会見の席上、同社が発売するリアプロジェクションテレビの売れ行きと、薄型大画面テレビ市場の動向に対する質問にこう答えた。

 「シャープさんだったら液晶が本命と答えるでしょうし、松下さんはプラズマだというでしょう。当然、セイコーエプソンはリアプロジェクションテレビが本命だと言いますよ」。木村副社長の言葉どおり、薄型大画面テレビは、もはやどの形式が本命と、一概には言えなくなってきた。これまでは「サイズによって、液晶、プラズマ、それぞれの方式の棲み分けが可能」とされてきた。液晶は小型から中型に適し32インチぐらいまで。それ以上の大画面になるとプラズマが優位とされてきたからだ。しかし、シャープが65V型の液晶テレビ「アクオスLC-65GE1」を発売したことで、この方程式は崩れた。価格は168万円と高額で売上ランキング上位に顔を出すような商品ではない。それにシャープ自身も「この製品が売り上げの主力となるとは考えていない」としている。発売の狙いは「65V型の液晶を市販できるという生産力をアピールする」ことにあった。

 展示会などで参考出品するレベルであれば、韓国勢がこれよりも大きなサイズの液晶テレビを作ってはいる。しかしシャープの場合は、市販品として65V型を販売している、ということが強みになる。つまり、これだけ大きなサイズの製品を「工場で量産する体制をもっている」ということをユーザーだけでなく、競合メーカーに示すことができるからだ。

 特にシャープの場合、液晶パネルを生産する亀山工場がある意味「ブランド」として成立している。そのパワーを見せつける意味合いをもっているわけだ。一部の販売店ではLC-65GE1を展示する什器に「亀山工場生産品」という文字を入れているところもある。家電製品でこれほど大々的に生産工場をアピールするものはこれまでなかった。それほど亀山工場はユーザーの認知度が高い。その生産力を示すフラッグシップモデルがLC-65GE1なのだ。



●いよいよ本格的に立ち上がるか? 第3の薄型大画面テレビ「リアプロ」

 今年の大画面テレビ市場で、台風の目となりそうなのがリアプロジェクション(リアプロ)テレビ。米国では年間300万台の市場規模をもっているが、日本での昨年の市場規模はまだ数千台程度。かつてリアプロジェクションテレビは、プラズマや液晶に比べて画面が暗く、視野角が狭いといった弱点を持っていた。また、映像を特殊な鏡に反射させて画面に写し出すリアプロは、本体サイズが大きくなってしまうため、居住空間が狭い日本の家庭には合わないためとも言われてきた。こうしたことが、日本での普及を阻んできた。

 しかし、最近発売されたリアプロは、従来の製品とは比較にならないくらい画面が明るく、視野角も広い。本体のサイズは相変わらず大きいものの、プラズマや液晶で大画面テレビに馴れたことで、日本のユーザーにも受け入れられる素地が揃ったといわれている。直販でプロジェクションテレビ「LIVINGSTATION」を発売するセイコーエプソンでは、47V型で29万8000円、57V型で39万8000円とプラズマ、液晶に比べて大幅に低価格化をはかった。「1か月半で約2000台を販売した」(セイコーエプソン・木村登志男副社長)という売れ行きの良さだ。この販売台数は、「昨年1年間の販売台数とほぼ同数」というから、今年になって売れ行きがどれだけ伸びたかがわかる。

 日本ビクターも、昨年米国に投入したリアプロを日本に投入。「BIG SCREEN EXE」の商品名で、61V型、52V型と2つの商品を発売した。同社は液晶テレビ、プラズマテレビも販売しているが、BIG SCREEN EXEは内部の素子まで自社開発しているだけに、注力具合が違う。「この製品を収益の柱に育て上げる」という意気込みで、販促や宣伝活動を進めている。同社が発売当初の段階で販促活動ポイントとしていたのが、「ユーザーに現物を見て、評価してもらう機会を増やす」という作戦。「品質には自信がある」ことから、あえてユーザーに直接訴える手法をとった。画面サイズについても、「大きいものを見慣れたユーザーは、より大画面のテレビを選択する。将来は日本の家庭の半数以上が、50V型以上を選択する可能性は十分にある」とより大きな画面のテレビを選択するユーザーが増えることに自信を見せている。

●プラズマの鍵握る松下電器の新工場

 今年はプラズマにとって暗い幕開けとなった。年初に、プラズマ事業から撤退するメーカーが現れたりパネル生産事業の売却を発表した企業もあり、プラズマの将来性を疑問視する声も多く聞かれた。しかし「生産工程での歩留まりの高さ、品質では決して液晶には負けていない」とプラズマテレビを販売するメーカーは強気だ。特にプラズマ躍進のキープレイヤーとなりそうなのが、松下だ。同社のプラズマテレビ「VIERA(ビエラ)」シリーズでは、タレントの小雪を起用し、黒髪の美しさを見せて「映像の美しさ」から品質の高さをアピールしている。

 同社のプラズマパネルは自社生産だが、さらに現在、兵庫県に新工場を建設中で、今年11月に稼働を予定している。この工場が完成すれば月産25万台、年間300万台と業界で最大の生産規模となる。量産体制がこれだけ整えば、低価格化への道筋も見えてくることになり、次の一手が注目される。プラズマテレビの命運は、松下がどれだけ思い切った市場展開を行うかにかかっているといえそうだ。

●さて、実際に買うとしたら? 気をつけたい3か条

 いくら安くなってきたとはいえ、やはり大画面テレビは大きな買い物。商品選びも相当悩んで迷うのではないだろうか。その際、参考にして欲しいポイントを3つ、ご紹介しよう。取材の中で各メーカーにうかがった話を整理したものだ。

 その1・店の明るさに惑わされるな!
 お店の照明と家庭の照明とでは、明るさに大きな違いがある。お店でちょうどいい明るさだと思った画面が、家の中に持ち込むと印象が全く違うこともある。お店の人に、家庭内での明るさに照らし合わせるとどうなるのか、相談してみるのもひとつの手だ。

 その2・サイズに惑わされるな!
 店頭では大画面テレビが所狭しと並んでいる。こんな環境では50インチ、40インチといったサイズのモデルも小さく見えてしまうこともある。家庭に届いたテレビを見て、予想以上のサイズに驚いた・・・なんてことも起こりがち。改定で設置する予定の場所のサイズをあらかじめ「メジャーで」測ってからお店に出かけよう。

 その3・流れている映像に惑わされるな!
 メーカーが用意した映像はそのテレビが最も美しく見えるよう工夫されたもの。自分が良く見る番組やソフトが、必ずしも同じようにキレイに見えるというわけではない。自分が普段からよく見ているソフトを店舗に持って行き、候補のテレビに流してもらって判断するのが一番。見慣れているだけに、映像の違いも良く分かり、判断しやすいだろう。

 メーカーの大画面競争は、一見「庶民」には関係ないように見える。しかし主戦場がどんどん大きなテレビに移っていくなか、実は32V型ぐらいからの一般家庭向けサイズの価格が順繰りに下がっていくという、うれしい効果ももたらす。実際、このへんのクラスの値段はかなりこなれてきた。高いとあきらめていた人も、一度売り場をのぞいてみてはいかがだろうか? 意外にお買い得の一台が見つかるかもしれない。(フリージャーナリスト・三浦優子)


*「BCNランキング」は、全国のパソコン専門店や家電量販店など18社・2200を超える店舗からPOSデータを日次で収集・集計しているPOSデータベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで113品目を対象としています。