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なぜ毛筆体の焼肉屋は旨いのか。『楽洛亭 日本橋店』で考えた。

グルメ

2023/09/19 08:05

大阪のミナミは焼肉・ホルモンの店が多い。炎天下にもかかわらず行列ができていたり、入れたと思ったら「今日は予約で満席」なんてこともしばしば。

和牛、焼肉、和牛。
見事なデザインセンスの暖簾

ふと気付いたのだが、人気店の多くが看板に特徴がある。それは、「店名が毛筆体」ということだ。毛筆体と言って正しいか分からないが、太明朝のような、筆書きのような、力強い字体。決してゴシック体ではない。もしかして「焼肉屋フォント」というものが存在するのだろうか。
 
なんば辺りには焼肉屋フォントの看板が溢れている

外観からもう旨い、『楽洛亭 日本橋店』

その良い例が、『楽洛亭 日本橋店』。創業から50年以上の焼肉&ホルモン屋で、看板は由緒正しき焼肉屋フォント。「和牛」「焼肉」「ホルモン」「楽洛亭」どの字もブレない明朝体。外観を見るだけで旨いと分かる。提灯まで下げちゃって、もうこれは焼肉屋外観選手権があったら上位入賞間違いないだろう。
 
「焼肉屋」の正解のような外観

店内まで“正しい”と感じる焼肉屋だ。ステンレスのカウンターに、コンクリートの床。色気をあまり感じない蛍光灯、そっけない手書きの品書き。ロースターは今どきの無煙ではなく、堂々と有煙。モクモクの白煙の中で食べてこそ焼肉は旨い、と主張しているようである。

店主はなんと81歳。妹と2人で営んでおり、5人いる兄弟は全員焼肉屋だという。親族も焼肉屋で、タレはその味を受け継いでいるそうだ。
 
無煙とは無縁、イマドキの焼肉屋とは正反対。
そこがいい(撮影:山口謙吾)

テッチャン650円、マルチョウ650円、タン700円…、安い。赤身盛合わせ3人前が2700円。ホルモン盛合わせ2人前が1100円。和牛でこの値段とは、さぞかし仕入れに腐心しているのだろう。

聞くと、開店以来付き合いのある南港・食肉市場に信頼のおける仲買人がいて、全てそこに任せているのだという。塊で届き、店内で丁寧に手切りする。店主は28歳で開店し今日までの53年間、ただ同じ作業を続けてきたのだ。均等で美しい断面。カッティングスキルはスライサー超えかもしれない。
 
タンなのにこんなにサシが入っているとは…!(撮影:山口謙吾)

1975年に移転リニューアルしたが、その時から外観も内観も変わらない。店主は素朴な人柄で物凄く優しい。かつ誠実。
 
焼きまくり喰いまくっているのは、肉食家のうらともえさん(撮影:山口謙吾)

結局、店主の真面目さが看板に表れているのだと思う

なぜ毛筆体の焼肉屋が旨いのか。恐らくあの「焼肉屋フォント」が流行した昭和の時代に開店し、良い店だから残ったのだろう。そして店主も「お洒落な看板に変えよう」などと余計な気を起こさず、ひたむきに旨い肉を出すことを考えるストイックな人なのだ。真面目さと職人魂が、店名の字体に表れている。そうだ、だからこの手の看板の店は旨いのだ。

ゴシック体の店だって良い店はあるので、以上の話は一個人的意見ってことで。

『楽洛亭 日本橋店』を台風直撃の日に取材敢行できた奇跡のエピソードは、あまから手帖のwebサイトで近日公開。
 
昔は「オールナイト焼肉」と書かれていた。
朝9時まで営業していたから(撮影:山口謙吾)


『楽洛亭 日本橋店』
住所/大阪府大阪市中央区日本橋1-20-11

※こちらの記事は、関西の食のwebマガジン「あまから手帖Online」がお届けしています。
あまから手帖Online=https://www.amakaratecho.jp/