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QuestかVisionか? 二つの「Pro」が拓く新たなコンピューティングの世界

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2023/06/25 18:30

アップルが日本時間の6月6日に発表した「Apple Vision Pro」は、大きな話題を呼んだ。ティム・クックCEOは、リアルな世界とネットの世界が融合する「空間コンピューティング」を提唱。全く新たな製品であることをアピールした。iPodで音楽プレーヤーのスタイルを変え、iPhoneでスマートフォン(スマホ)のスタイルを確立させた同社。今度はコンピューターのあり方を変えるかもしれない。しかし、価格が3499米ドル、日本円で50万円前後と高価。発売も米国で来年早々、他国では来年末までと時間がある。本格的な普及期がくるとしても、もう少し先の話になりそうだ。

先行する「Meta Quest Pro」(上)と
来年発売の「Apple Vision Pro」

 音楽プレーヤーのiPodで、アップルはクリックホイールというユニークなインターフェースを開発。iTunesとのスムースな連携や使い勝手のよさで、先行するソニーを追い越した。iPhoneでは高精度のタッチパネル付きディスプレイを全面に採用することで、スマホの草分け、BlackBerryを凌駕した。VR・ARゴーグル市場では現在、Meta Platformsが先行している。事実、フラグシップモデルの「Meta Quest Pro」は、精度や完成度、その他細かな点を除けば、Vision Proとほぼ同様のことができる。Vision Proでは、既存技術をうまく組み合わせつつ、別次元の製品に昇華させるアップルの手腕が試される。

 現在のVR・ARゴーグルは、そのほとんどがゲーム用途だ。箱型のきょう体にスマホを差し込んで使う簡易型もあるが、通電型の本格的製品が主流。全国の家電量販店やネットショップなどのPOSデータを基にするBCNランキングの集計では、通電型は販売台数の8割前後、販売金額では9割以上を占める。通電型のVR・ARゴーグル市場は、この1年で大きく変化した。一つがトップシェアメーカー、Metaが行った「値上げ」と「値下げ」だ。Metaは昨年8月、主力製品の「Quest2」を値上げ。およそ5割前後、2万円以上と大幅な値上げを敢行した。全体の平均単価も7月の3万7200円から、翌8月は5万1900円まで急上昇した。
 

 BCNランキングの集計では、昨年2月以降、台数、金額がいずれも前年同月比で2倍から3.5倍と絶好調だった市場は、値上げを実施した8月には台数51.2%、金額も75.9%まで急減速。完全に勢いを失ってしまった。世間の関心がメタバースよりも生成AIに移ってしまったことも大きい。しかしこの3月、Metaは、今度はQuest2の256GBモデルを13.4%、Quest PROを29.7%とそれぞれ「値下げ」した。加えて、ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が2月に「PlayStation VR2」(PS VR2)を発売したこともあり、2月と3月は市場が上向いた。しかし、長続きせず4月、5月と大きな前年割れに見舞われている。
 

 Metaは、値上げをきっかけにシェアを急速に失いながらもトップは維持。SIEがPS VR2を発売すると、一時2位に後退したが、4月にはトップに返り咲いた。このところ伸びているのが新興メーカーのPICO Technology。5月にはSIEをかわして2位に浮上した。かろうじて3位で踏ん張るSIEの背後には同じく新興メーカーのXREAL(旧Nreal)が迫る。NTTドコモでの取り扱いなどを武器にシェアを拡大中だ。今後、Vision Proが台風の目になることは間違いないが、Metaは秋にも主力モデルの後継「Quest 3」を発売する。問題は、あの大きくて重く不格好なきょう体だ。どこまで小型化できるか、あるいは、どこまでユーザーが妥協できるかのせめぎあいで、普及のスピードは決まるだろう。(BCN・道越一郎)