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FCCL、PC業界で初! 「カスハラ対策」を明文化した狙いを聞いた

 富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)は2023年3月1日に、同社のサービス規約/規程の更新を実施し、カスタマーハラスメント(カスハラ)に関する条文等を追加した。具体的には、社会通念上過剰なサービス提供の要求や合理的でない謝罪要求、また、威迫・脅迫・侮辱・誹謗中傷といった社会通念上不相当な行為をした場合に、サービスの提供を断るケースがあるとしている。改定の背景と意図を、FCCLのPRS事業本部 シニアプロフェッショナルの中馬仁一氏と、お客様相談室室長の熊谷博隆氏に聞いた。

FCCLのPRS事業本部の中馬仁一・シニアプロフェッショナル

カスハラ対策の明文化で、抑止と被害発生時の対応を整える

 今回、FCCLがサービス規約/規程にカスハラ対策を明文化した背景にあるのは、法の改正がある。まず、2019年6月に「労働施策総合推進法」の改正で、職場におけるパワーハラスメント防止のため、必要な措置を講ずることが事業主の義務となり、翌20年には「雇用管理上講ずべき措置等についての指針」も策定された。

 これを受けて、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に関して、事業主は、従業員の相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取り組みを行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取り組みを行うことが有効である旨が定められた。

 さらに、22年2月には、厚生労働省が「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を公開、企業として取り組むべき事項を具体的にまとめている。

 さまざまな理不尽なクレームや暴言は、カスハラという言葉が言われるはるか前からあったが、「お客様を第一」とする日本社会において、どう対処するかは企業共通の課題だった。これら法的な一連の流れは、これまで潜在化しがちだった「カスタマーハラスメント」に、社会全体で対策を考える一つの大きな転機ともなりそうだ。

 FCCLのサービス規約への追加はPC業界として初だが、「他業界での動きにも影響を受け、色々と勉強させていただいた」と中馬シニアプロフェッショナルが語るように、小売、ホテル業、運送業などでもガイドライン策定などが進んでおり、任天堂のサービス・保証規定への項目追加は報道でも話題にもなった。

 FCCLのカスハラ対策の目的は、不当・悪質なクレームから、従業員(業務委託先含む)を守り、最適な就業環境を提供することだ。

 「規約をお客様へ周知することで、カスタマーハラスメントの発生自体を抑止する。そして、カスタマーハラスメント被害発生時の対応として、サービス・サポート対応中での中断、エスカレーション体制を整えた」と中馬シニアプロフェッショナルは説明する。
 
「FCCLのコンタクトサポートの体制」(FCCLの資料より)

サポートスタッフの負担を低減し、顧客と双方の満足度を向上

 FCCLでは、全国の3地域でサポートセンターやお客様相談室を展開する。お客様相談室はカスタマーサポートでは対応が難しい場合の窓口だ。

 通常のサポート窓口、有償のサポート窓口、購入相談窓口を合わせると毎月数万コールもの問い合わせに対応しているが、「その中の1%にも満たないものの、暴言をはじめ脅迫に近いものなど、カスタマーハラスメントが発生している。通常は平均すると、一人当たり20~30分程度の電話対応だが、中には2時間を超えて不当な要求を長々と繰り返されることもある」と中馬シニアプロフェッショナル。金銭の要求や新品への交換、社長の謝罪要求など、多くの無理難題を言われてきたという。

 また、熊谷博隆・お客様相談室室長は、「お客様相談室では、不当な要求に対しては『できないことはできません』『電話を切らせていただきます』といった対応をしてきた。しかし、これまでカスタマーサポートは、顧客から人格を否定するような暴言を受けたり、無理な要求を繰り返されたりしても、対応者側で電話を切るということは原則、認められていなかった。できる限りの対応をした上で、お客様相談室に引き継ぐというプロセスになっていたため、精神的にかなり無理してまで対応していたケースもあった」と説明する。
 
熊谷博隆・お客様相談室室長(消費生活アドバイザー)

 顧客の暴言に委縮し、対応に疲弊したスタッフは、その後、別の顧客にきちんとした対応ができなくなるかもしれない。今回、対策を規約に盛り込むとともに、サポート対応中に中断ができるよう、3段階にレベル分けした判断基準を策定したことで、現場の負担軽減を狙う。

 「基準の策定でカスタマーサポートのリーダー、スーパーバイザーといった現場責任者の判断でサポートの中断をできるようにした。これまではカスタマーハラスメントを判断する線引き自体が難しかったが、基準があるというだけでも現場の心理的な負担は軽減されているようだ」と中馬シニアプロフェッショナルは語る。
 

「ノンボイス・サポート」にも注力し、現場の負担を軽減

 一方、カスハラに至る原因の一つに電話の待ち時間がある。それを解消するため、FCCLではノンボイス・サポートに力を入れている。ユーザーサポートのWebページをリニューアルし、さまざまな工夫を凝らした。また、チャットサポートへの誘導も勧めている。

 「2年前から無人、有人のチャットサポートを導入、LINEによるサポートも用意し、電話対応の一部を分担することで、つながりやすさを目指している。実際、若いお客様は初めからこちらを選択するケースも多い。また、チャットやLINEなら、一人のスタッフが並行して複数のサポートができる点もメリット」と中馬シニアプロフェッショナルは、ノンボイス・サポートのメリットを語る。顧客の年代によって、使い慣れているコミュニケーションツールを選択できるようにしたのだ。こうすることで、相談への対応がストレスなくスムーズに進む。

 一般に、離職率が高いとされるサポートセンターのスタッフだが、特にPC業界においては他業種と比べてスタッフの育成にも多くの時間とコストが掛かる。せっかく育った人材が、カスハラの理由で退職してしまうと企業にとって大きな損失だ。それは巡り巡って、サービスやサポートの質という形で顧客全体に跳ね返るということも考えておきたい。

 「わたしたちが目指すのは、サポート対応するスタッフとお客様の双方の満足度を向上させること。これからもそのための施策に取り組んでいく」と中馬シニアプロフェッショナルは力を込める。(BCN特約記者・木村春生)
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