飲食店や小売店ではアルバイトの採用難が続いており、シフト(勤務予定)の調整は店舗オーナーや店長にとって悩みの種になっている。そこで、シフト作成を支援するためのツールが各社から提案されているが、リクルートライフスタイルが提供する「Airシフト」では機械学習技術を導入しており、AIが自動的に最適なシフトを作成することが可能という。一見すると、空いている時間帯に人を割りあてるだけの簡単な仕組みにも思えるが、なぜAIが必要だったのか。同社でAirシフトのサービス責任者を務める沓水佑樹氏に聞いた。

シフト作成を効率化する「Airシフト」。スタッフ数によるが月額1000円から利用できる

店長にとっては「苦痛」だったシフト作成業務

 アルバイトを雇用している店の多くでは、週に1回、月に1回といった頻度で各スタッフから勤務希望日時を申告してもらい、店長がそれをとりまとめてシフトを作成している。最近ではメールやLINEで希望日時を連絡してもらう店が主流だが、バックヤードの壁に貼り付けられた紙の予定表に書き込むといった店もまだまだ多いようだ。店長はExcelや方眼紙でシフト表を作成し、それを再びメール等でスタッフに通知する。

 このやり方では、LINEや紙、PC上のソフトといった異なる複数のツールを使っているため、希望日時の収集から調整、通知までに時間がかかるうえに、ミスが発生しやすいという問題がある。転記や連絡のミスがあると、忙しいときに人手が足らず、来店客からのクレームを招いたり、直前になってスタッフにシフトの追加・変更を依頼しなければならなくなったりと、店長は胃の痛い思いをする。そのため、付加価値を生む作業でないにもかかわらず、シフト作成は慎重に行う必要がある。細かい連絡・調整も多々発生するため、神経をすり減らす、精神的にも負荷の高い業務だという。

 Airシフトは、シフト表の作成に加えてスタッフとの連絡機能を搭載したサービスで、各スタッフがスマートフォンアプリから希望日時を提出すると、店長のPCのカレンダー上にそれらが一覧表示され、あとは過不足ないように画面上でスタッフの配置を並べかえるだけでシフト作成が完了し、確定した勤務日時が通知される。人が足りない時間帯がある場合は、同じ画面上でスタッフとのチャットを開始し、依頼や調整を行うことができる。

 リクルートライフスタイルでは「やりとりも作成もラクになる」シフト管理サービスであることを強調しており、シフト管理とコミュニケーションの両機能を統合したことで、転記の手間やミスをなくせる点が大きなポイントだとしている。今年4月にサービス提供を開始しており、沓水氏によると「導入店舗からは『毎月数時間を費やしていたシフト作成業務が1時間以内で終わるようになった』や『これまでシフト作成は苦痛な作業だったが、画面上でカチカチと操作するだけで完了するので、これが仕事という感覚がなくなった』という声をいただいている」という。
 
リクルートライフスタイル Airシフトサービス責任者 沓水佑樹氏

「使えるシフト」の作成には、スキルや人間関係の考慮も必要

 機械学習を応用したシフトの自動作成は、7月に「シフト作成アシスト」機能として新たにリリースした。曜日・時間帯ごとに必要な人数を最初に一度だけ登録しておけば、スタッフから勤務希望を集めたあと、「シフト作成アシスト」ボタンを押すだけでシフトが自動作成される。導入店舗の一部では、この機能を使うことで1回のシフト作成が1分以内で完了するほどの高速化が実現できたといい、利用することで店長の時間をさらに有効活用できるようになる。
 
「シフト作成アシスト」を押すと、AIが自動的に最適なシフトを作成する

 実は、スーパーマーケットや病院などを対象にした業務支援システムには、シフトの自動作成機能を搭載しているものが以前から存在していた。しかし沓水氏によると、新機能の開発にあたって300人以上の飲食店店長にヒアリングしたところ、Airシフトがターゲットとする小規模な飲食店や小売店では、既存の仕組みをそのまま応用しても、店をうまく回すことができないことがわかったという。

 店長に話を聞いてみると、シフト作成では、店の営業時間、店舗運営に必要な人数、各スタッフが働ける日時を単純に組み合わせているだけではなかった。「スタッフごとに異なるスキルレベルや、スタッフ間の相性など、店長はシフト作成に応じてさまざまな要素を考慮しています。これは生産性の追求とはまた異なる話で、店によって最適解も異なります」(沓水氏)。

 忙しい時間帯にはベテランやリーダー格に入ってほしいと考えるのは当然だし、入店間もないスタッフには面倒見のよい人をペアにするといった調整を行うこともある。場合によっては、この人とあの人は同じ時間帯に入れないほうが……というように、人間関係を気にする場面もあるだろう。

 大企業向けの管理システムには、各スタッフについて業務スキルを登録しておくと、過去のPOSデータなどから売り場ごとの繁忙度をはじき出し、自動的に人員を割り当てることが可能なものもある。しかし、これを正しく機能させるためには、スタッフが行うさまざまな業務をリスト化し、一人ひとりのスキルセットをシステム上で細かく管理する必要がある。店長も現場の仕事で忙しい小規模店舗では、管理業務にそこまで時間を割くことは不可能だ。

 また、そのようなシステムは「作業に人を割り当てる」という考え方になりがちだ。沓水氏は「シフト作成アシストでは、経営管理的な手法でシフトを最適化するのではなく、実際に店をまわす店長の考えや、スタッフの希望を反映したシフトを作ることを目指しました。当初は他のアルゴリズムで実現することも考えたのですが、最終的には、店長の“クセ”をAIが学習し、次のシフト作成に反映していくやり方が最良という結論に至りました」と述べ、機械学習を導入することで、現場が納得できるシフトの自動作成が可能になったと説明する。

 シフト作成アシスト機能では、自動作成されたシフトに店長が手動で変更を加えると、その内容が学習され、次回の自動作成に反映される。使っていくごとに店長の考え方を学び、手動変更が必要な部分は少なくなっていく仕組みだ。「自動作成されたシフトをみた店長が、納得感をもってそれを使えることが重要だと考えています。お店で作られている実際のシフト表と自動作成の結果を照らし合わせながら、店長が無意識に行っている調整まで反映されるよう、チューニングを重ねました」(沓水氏)。

店側が強かった時代は終わりを迎える

 同社がシフト管理サービスの開発に力を入れている背景には、今、アルバイト市場における雇用側と非雇用側の“パワーバランス”が、大きく揺れ動いているという面がある。

 例えば、昨年10月時点の20~24歳人口は622万人で、1997年10月の958万人と比べると、この20年で3分の2に減少している。これを補うため、主婦や高齢者を短時間勤務OKの条件で募集するケースが増えている。また、大学生といえば自由な時間を謳歌する存在のように思われていたが、大学は全体として単位認定や卒業要件の厳格化に動いており、現代では学生もバイトばかりに明け暮れるわけにはいかなくなってきている。

 労働力が買い手市場だった昔であれば、スタッフ個々人の希望より店の都合を優先し、店長が決めたシフトに従え、という管理手法が通じたかもしれないが、募集をかけても人が集まらない今、店側がスタッフに「何曜日は必ず何時間以上入って」と強く言うことはできない。細切れの時間でも働きにきてもらわないと、店がまわらないという状態になりつつあるため、シフトも複雑化する傾向にある。

 シフト作成がシステム化されれば、店長は苦痛な業務から解放され、スタッフはよりフレキシブルな働き方が可能になる。働きやすい店には多くの人材が集まるので、競争力もアップする。店舗経営においてシフト作成業務は一部分に過ぎないが、採用難の時代を乗り切るには、その改善が不可欠になっているというわけだ。(BCN・日高 彰)