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電子書籍普及のカギはタブレットにあり? 「iBookstore」はiOSの強みになるのか

特集

2013/03/26 20:39

 ソニーの「Reader」や「kobo」などの専用端末の発売をきっかけに、ここ数年、本屋で流通している一般的な”紙の本”をデジタル化した「電子書籍」が話題になっている。以前から携帯電話やパソコン向けに展開していた大手を含め、数多くの電子書籍ストアがあり、昨年10月のAmazonの「Kindleストア」に続き、3月6日には、アップルの「iBookstore」日本語版もオープンした。今回は、他のマルチデバイス対応の電子書籍ストアとは異なり、ハードと密接に紐づいた「iBookstore」の特徴と、その専用端末であるiPad/iPhoneなどのiOSデバイスの直近の売れ行きについてまとめた。

日本語の電子書籍の販売を開始した「iBookstore」。iPadなどiOSデバイスからは、電子書籍アプリ「iBooks」の「ストア」からアクセスできる
 

アプリや音楽と同じ感覚で手軽に電子書籍を購入できる「iBookstore」



 現在、主にタブレット端末・スマートフォン向けに日本語の電子書籍を配信しているコンテンツストア(電子書籍ストア)の多くは、購入した書籍を複数の端末で読める「マルチデバイス」に対応している。しかし「iBookstore」は、現在、iOS用アプリ「iBooks」をインストールしたiPad/iPhone/iPod touchにしか対応しておらず、Androidなど、iOS以外のOSを搭載したタブレット端末・スマートフォンや、Macを含むパソコン、従来型携帯電話では利用できない。
 

日本語の電子書籍を閲覧するにはiBooks 3.1以降、iOS 6.1以降が必要。2010年発売のiPad(初代)では読むことができない

 ラインアップの確認や購入手続きなどは、パソコンからもOK。iOSデバイス側の設定で「自動ダウンロード」をオンにして、インターネット経由でデータをダウンロードすれば、手持ちの端末で読むことができる。iPadなどのiOSデバイス上では、「iBooks」の「ストア」から、アプリや音楽などと同じように簡単に購入・ダウンロードでき、購入した書籍は本棚をイメージした「ライブラリ」に格納される。
 

iOS用アプリ「iBooks」の「ライブラリ」画面(iPad版)。ストアの「iBookstore」と一体化した専用アプリ「iBooks」のインターフェースは独特で、紙の本のようにコレクションする楽しみがある
 

基本的な機能は他サービスと同じ 強みは独自のインタラクティブコンテンツ



 文字サイズの変更、辞書、検索、しおり(ブックマーク)、ハイライト、ブック上でのメモなどの基本的な機能は、他の電子書籍サービスと同等だ。小説や実用書などテキストベースのブックは、フォントの種類やサイズ、明るさ、背景色(ホワイト・セピア・夜間)が変更でき、紙と同じような感覚でページ送りができる「ブック」と「フルスクリーン」、ウェブページと同様の「スクロール」の三つのテーマ(モード)を選択できる。一方、マンガや絵本・レシピ本などは、明るさの調整と画面表示の拡大・縮小だけに対応する。

 また、「iCloud」を利用すれば、購入した電子書籍を、手持ちのすべてのiOSデバイスで読むことができ、メモやブックマークなども常に最新の状態に保つ。「他の端末で読んだ続きから別の端末で読める」機能やブックマークの同期などは「Kindle」なども備えていて、「iBookstore」独自の機能ではないが、登録済みのApple IDとパスワードだけで利用できる点は便利だ。
 

定評のある美しいフォントは読みやすく種類も豊富。背景色やテーマなども選ぶことができる

 電子書籍のラインアップや、探しやすさ・分類などに対する評価は、人によって分かれるだろう。個人的には、学生時代に読んでいた集英社の『ジャンプコミックス』が揃っているだけで十分。マンガは、価格の異なるモノクロ版とカラー版を併売している作品が多い。他の電子書籍ストア同様、購入前に試し読みできるサンプル版や、著作権の切れた名作を中心とした無料ブックも用意している。

 他の電子書籍ストアとの違いとしては、音声データを収録した読み聞かせ絵本など、紙の本では実現できないインタラクティブな工夫を施したコンテンツが挙げられる。従来の「書籍」の枠を越えたものといえるだろう。アップルの広報担当者によると、これらは、作者や出版社がデジタル時代の新しい本のあり方を考えて企画したものという。こうした「仕掛け」そのものは目新しくはないが、ハードとソフト、サービスを一貫して手がけ、独自のブランドを確立したアップルならではの試みといえる。
 

図鑑と一体化した学研の絵本『ぴよちゃんのおはなしずかん おてがみきたよ』(期間限定で無料配信中)。音声データを収録していて、図鑑部分をタップすると日本語と英語で単語を読み上げる(左はiPadでのスクリーンショット、右下は「iPhone 5」での表示)

 電子書籍に限らず、音楽・動画配信、オンラインアルバム、オンラインストレージなど、IDとパスワードで管理する方式のオンラインサービスは、クラウドサービスとも呼ばれ、利用する端末の種類を問わない「マルチデバイス対応」が標準になりつつある。この点では、「iBookstore」は対応機種がiOSデバイスに限定されるので、不便で閉鎖的だと反感を抱く人も多いかもしれない。しかし、ストアと一体化した電子書籍アプリ「iBooks」のインターフェースと、iOSと一体化した「iCloud」との連携性を考えると、今後も「iOSデバイス専用」を貫くような気がする。
 

専用端末は低迷 電子書籍の普及のカギはタブレット端末が握る?



 家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によると、電子書籍専用端末の販売台数は、Amazonの「Kindle Paperwhite」や、直販サイト・書店などで販売されたぶんが含まれていないこともあり、汎用的なタブレット端末やスマートフォンに比べると非常に少ない。ディスプレイに、目にやさしく、バッテリのもちがいい電子ペーパーを採用した電子書籍専用端末は、小説など、テキスト主体の電子書籍の閲覧には向いている。何より価格が安いので、一定の需要はあるだろう。ただし、電子書籍の普及のカギを握るのは、7~10インチ程度のカラーディスプレイを搭載したタブレット端末と、最近急に増えてきた5インチ以上の大画面ディスプレイを搭載したスマートフォンになりそうだ。

 iOSを搭載したiPhone/iPad/iPod touchについて、週単位でそれぞれの販売台数を集計すると、「iPod touch」は、年末年始のセールの影響とみられる2012年12月最終週(2012年12月31日~2013年1月6日)のピークのあとは低下したが、ここのところやや盛り返している。「iPad」は2月半ば以降、ようやく品薄が解消した7.9インチの「iPad mini」のWi-Fiモデルが好調で、9.7インチのRetinaディスプレイモデル(第3・第4世代)を含めたiPad全体でも増加傾向にある。スマートフォンの「iPhone 5」は、キャンペーンと季節要因から、3月に入って一段と伸びている。
 

 


売れるiOSデバイス 「iBookstore」で広がる電子書籍リーダー用途



 アップルは、スマートフォン、タブレット端末、携帯オーディオプレーヤーの三つのジャンルで高いシェアをもつ。なかでもタブレット端末では、2010年5月の初代iPad発売から2012年11月まで、31か月にわたって月間メーカー別販売台数1位を獲得し続けていた。しかし、2012年12月と2013年1月は、「Google初のタブレット」という位置づけの「Nexus 7」が9割以上を占めるASUS(エイスース)がトップに立ち、「iPad mini」発売後、それまでよりiPad全体の販売台数が増加したにもかかわらず、アップルは2位に甘んじた。2013年2月はアップルが42.7%を占め、2か月ぶりに1位を奪還。価格の安いAndroid搭載タブレットに傾いた流れを引き戻した。Androidは、バージョン4.2からマルチユーザー対応になって、1台の端末を家族など複数人で共有したり、仕事用/プライベート用で使い分けたりする場合は、iPadより使い勝手がいい。Windows 8/RT搭載機種を含めて、今後、OS・メーカーのシェア争いが激化しそうだ。
 

 
 2005年8月にスタートした「iTunes Store」は音楽配信サービスの一つとして定着。iPodやその発展形として生まれたiPhoneの人気を下支えし、自社のハードとサービスを紐づけてハードの魅力を高める役割を果たした。しかし、「iBookstore」は電子書籍ストアとして後発で、他のストアやKDDIの「ブックパス」のような月額読み放題制の電子書籍サービスなど、競合は多い。はたして「iBookstore」はiOSデバイスのユーザーに選ばれる存在になるのか。今後のラインアップの拡大、サービスの拡充の行方に注目したい。(BCN・嵯峨野 芙美)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。

*Amazonの「Kindle Fire HD」「Kindle Fire」、マイクロソフトの「Surface RT」は、「BCNランキング」の集計対象店で販売されていますが、現在、集計対象から除外しています。本記事で取り上げているデータには一切含まれていません。