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NECのPCはこれまでと何が違うのか、NECパーソナルコンピュータの小野寺忠司商品開発本部本部長に聞く

インタビュー

2011/12/19 18:54

 今年7月、NECとレノボの合弁によって、日本最大のパソコン事業グループ、NEC レノボ・ジャパングループが誕生した。9月には、グループを母体とする新会社「NECパーソナルコンピュータ」から、合弁後初のNECブランドの製品が登場している。

 PCに限っていえば、デスクトップPC「VALUESTAR」とノートPC「LaVie」というブランドは従来通りで、合弁前との違いはわかりにくい。新会社としてスタートしたNECのPCは、これまでと何が違うのか。そして今後、どのようになっていくのか。商品開発本部の小野寺忠司本部長に聞いた。(取材・文/田沢理恵)

NECパーソナルコンピュータ商品開発本部の小野寺忠司本部長。
製品は、タッチとキーボードマウスの二通りの操作ができる「LaVie Touch」 
Photo by Maki Umaba

新会社スタートで新カテゴリ創出に効果



 ――NECの秋冬モデルPCは、新会社のNECパーソナルコンピュータからの発売となりました。NEC レノボ・ジャパングループは、NECパーソナルコンピュータとレノボ・ジャパンを傘下に収める巨大組織です。新会社から発売した製品は、これまでとどう違うのでしょうか。

 小野寺
 今年の秋冬モデルでは、まず、タッチとキーボード・マウスの二通りの操作ができる「LaVie Touch」、初期設定の出張サポートが標準で付属する初心者向けノートPC「とことんサポートPC」を発売しました。この秋冬の目玉となる製品ですが、こうした新カテゴリの製品を投入するためには、開発費や販売に大きな費用が必要です。ワールドワイドでPC事業を展開するレノボが出資する会社が母体になったことが、キーコンポーネント調達の原動力になります。今までと違うのは、NECとレノボが共同で資材を購入することで、開発や販売への投資を強化できるようになったことです。

 ――目玉となるタブレット端末の「LaVie Touch」は、どんなユーザーをターゲットにしているのですか。タブレット端末市場は、アップルiPadを除くと、Android OSを搭載した製品が多いです。「LaVie Touch」は、OSにWindows 7を採用していますが……。

 小野寺
 Windowsユーザーで、タブレットは初めてという人がターゲットです。Windowsなら、店頭のPCコーナーに展示して、Windowsユーザーに訴求できますからね。Android端末は各種操作がWindowsとは違いますが、WindowsならPCの作法がそのまま通用しますので、迷わず操作できます。また、データの資産が生かせることもメリットです。タブレット部分をDVDドライブ搭載のマルチステーションにセットして、付属のキーボードを組み合わせれば、ノートPCのようにバリバリと使うことができます。タブレットの部分は、外出先での利用にこだわって、約10.6時間の長時間バッテリで729gの軽量ボディを実現しました。

初期設定の出張サービスが標準で付属する「とことんサポートPC」

 ――もう一つの目玉である「とことんサポートPC」は、インターネット回線への接続、ブラウザ、メール、セキュリティソフトなどの初期設定の出張サービスを標準で付属しています。初心者に特化したモデルを発売したのはなぜですか。

 小野寺
 当社の調べによると、PCユーザーのうち、初心者層や買っても使っていない未使用者が潜在的に半数を占めています。PCの潜在需要は、まだまだあるということですよね。そこで、初心者の方々に使っていただけるPCを開発しました。インターネットやメール、写真の整理・印刷、ハガキ作成などの操作は、専用ボタンですぐ起動する「おてがるメニュー」で簡単に操作できます。またキーボードは、母音の色を強調したり「Enter」ボタンなどを日本語表記にしたりなど、わかりやすくしています。電話サポートでは、自社の製品だけでなく、他社製のPC周辺機器やソフト、TwitterGoogleなどのサイトの操作など、PCと関係していることであれば、質問に対応します。製品名に「とことん」と入れているくらいですから、初心者の方がPCでやりたいことが実現できるように力を入れました。

 ――タッチパネルでの操作には対応していませんが、それはなぜでしょうか。タッチパネルは直感的に操作できるので、初心者には使いやすいと思うのですが……。

 小野寺
 現段階では、タッチ操作に対応したWindows用のアプリケーションが少ないということが理由の一つです。それから、PCに親しんでいただきたいので、操作に不可欠なキーボードやマウスには慣れてほしいという思いもあります。やがては他のモデルに乗り換えていただけるように、ということです。

 ――ターゲットは、シニア層と考えていいのでしょうか?

 小野寺
 シニア層に特化したモデルではありません。すべての年齢層に受け入れていただけるように、あえてシニア色は出していません。

21.5型フルハイビジョン液晶を搭載するデスクトップPC「VALUESTAR VN790/FS」

 ――デスクトップPC「VALUESTAR」について、秋冬モデルの特徴を教えてください。

 小野寺
 売れ筋の「VNシリーズ」のデザインを一新し、画質などを強化しました。「VN790/FS・770/FS・570/FS」には、21.5型フルハイビジョン液晶を搭載しています。テレビ放送が地上デジタルに移行し、テレビの買い替え需要は一巡しましたが、PCはあくまでもパーソナルユースの商品。引き続き、個人の部屋で見るテレビとしてもまだまだ需要があるとみています。

PCはハブに、タブレット端末はソリューションの一つ



 ――では、これからのNECのPCがどうなっていくのか、お聞きしたいと思います。まずは、NECの個人向けPCが目指す方向を教えてください

 小野寺
 NECのPCが目指しているのは、PCが各種デジタル機器のハブになってワイヤレスで連携していくことです。Windowsの次期OSでは、ユーザーインターフェースはタッチ式になり、使い勝手が革新的に進化します。NECはPCをどんどん進化させて、新しい製品を創出していきます。タブレット端末については、ソリューションの一つとして打ち出していきます。

 ――インテルが提唱する超薄型・軽量のノートPC規格「ウルトラブック」が一部のメーカーから登場しました。価格も10万円前後~15万円程と手頃なことから、注目度が高まっています。NECはいかがですか?

 小野寺
 各社のモデルが出揃うのは来年だと見ています。NECの投入時期についてはコメントできません。

 ――来年1月1日からは、いよいよ、個人向けPCの電話サポート「使い方相談」が、購入後2年目以降も無償になるのですね。

 小野寺
 個人向けPCの電話サポート「使い方相談」の無償化は、NECの個人向けPCのポリシー「安心・簡単・快適」を実現させるサービスとして、優先的に取り組んできたことの一つです。NEC レノボ・ジャパングループ発足後の経営効率化によって、コールセンターの人員や教育の強化を図り、サービスの質も引き続き高いレベルを提供できる体制が整いました。NECのPCをお使いのお客様は、PCの操作に困ったときにはいつでも相談できます。これからも、NECのPCが安心感を提供するために欠かせないサービスです。

 ――これから生まれる製品とサービスを楽しみにしています。ありがとうございました。

【Profile】

Tadashi Onodera
 1960年2月24日生まれ。山形県米沢市出身。1982年、東北学院大学応用物理学部を卒業し、米沢製作所(現・NECパーソナルコンピュータ)入社。パソコンの開発に携わる。NECパーソナルプロダクツ(現・NECパーソナルコンピュータ)商品企画部長、商品企画開発本部本部長代理などを経て、11年7月、NECパーソナルコンピュータ商品開発本部本部長に就任。

【取材を終えて】

 小野寺本部長は、1986年に発売したNEC初のラップトップパソコン「PC-98LT」や、89年に発売した「PC-9801N」(通称「PC98ノート」)など、歴史に残る名機の開発を担当してきた。今回の取材を終えて、89年11月に「PC98ノート」を出荷したときの貴重な話を聞くことができた。

 「PC98ノート」を89年11月に発売することが決まったのは、同年7月。東芝から発売されたばかりのA4サイズのノート型パソコン「DynaBook」に対抗するためだった。発売に向けて、何百人ものエンジニアが、連日徹夜の状態で開発に取り組み、開発期間3か月半という猛スピードで発売に漕ぎ着けた。当時は「ハードルが高くて無理なのではないかと思った」(小野寺本部長)というほどのハードスケジュールだったそうだが、結果的に歴史に残るヒット商品となった。

 22年前、NECノートPCの端緒となる製品が誕生した背景を聞きながら、歴史を学ぶことは今を知る一歩であることを実感した。