• ホーム
  • トレンド
  • 電子書籍、これからどうなる?(2) シャープとソニーが目指す端末とサービス

電子書籍、これからどうなる?(2) シャープとソニーが目指す端末とサービス

特集

2011/02/17 20:31

 昨年10月12日、電子書籍の端末として、シャープが「GALAPAGOS」、ソニーは「Reader」を発売した。専用端末の登場によって、新聞や雑誌、実用書など、以前の電子書籍ではメジャーでなかったジャンルのコンテンツを端末で読む、というスタイルを各社が提案している。前回の携帯電話3キャリアの取り組みに続き、今回は電子書籍向けの端末を中心に、シャープとソニーに取り組みを聞いた。

→第1回「電子書籍、これからどうなる? 携帯キャリアに聞く現状と今後の課題」から読む

 シャープの端末「GALAPAGOS」は、電子書籍だけでなく、一台でさまざまなコンテンツを楽しむことを想定して、“メディアタブレット”と名付けている。現在はコンテンツ提供サービス「TSUTAYA GALAPAGOS」からインターネット経由で電子書籍を提供しているが、今後は動画や音楽なども楽しめるようになる。

シャープの笹岡孝佳ネットワークサービス事業推進本部商品企画担当係長

 笹岡孝佳ネットワークサービス事業推進本部商品企画担当は、「当社が注力している事業である液晶を活用して、さまざまな情報を提供していきたいという思いがある。GALAPAGOSは、それが実現できる多機能な端末を目指した」そうだ。

 端末のユーザーとして想定しているのは、40代のビジネスパーソンと、30代の主婦。前者は液晶画面が5.5型のコンパクトタイプ「EB-W51GJ」で、通勤中の利用を想定している。後者は、10.8型の大型画面を採用した「EB-WX1GJ」で、自宅で使うことをイメージした。

GALAPAGOS(EB-WX1GJ)

 さらに、「GALAPAGOSの認知は高まってきているので、そのほかの層にもアプローチしていく」(笹岡係長)という。例えば、大学生など特定のターゲットに合わせた端末・サービスのカスタマイズも視野に入れている。

 一方、コンテンツサービスの「TSUTAYA GALAPAGOS」は、リアルの書店のようにたくさんの書籍をずらりと並べ、ユーザーは好みの書籍を選ぶことができるようになっている。10年12月10日のサービス開始時には、約2万コンテンツを揃えた。コンテンツは、ホーム画面に自動で配信される形式。いわゆるプッシュ型にした狙いは、ユーザーの利便性を追求するため。

TSUTAYA GALAPAGOS(PC版)のトップページ

 笹岡係長は「まずやりたかったのは新聞」という。現在、日本経済新聞、MainichiTimes、西日本新聞の3紙をストアで取り扱っている。「週刊紙や月刊誌など、定期購読のコンテンツは、リアルの書店だとつい買い忘れてしまう。電子書籍なら、こちらから新刊を提示すれば、ユーザーは買い忘れがない」とメリットを挙げる。

 コンテンツについては、作品数を拡充することはもちろん、各種スマートフォンや同社の薄型テレビ「AQUOS」でもコンテンツが視聴できるよう、検討していく。「GALAPAGOSによって端末で書籍を読む人が増え、電子書籍市場が拡大すると期待している」(笹岡係長)。
___page___
 一方、ソニーは、電子ペーパーを用いたタッチパネル式の電子書籍専用端末「Reader」を提供している。Readerは、新聞や雑誌など写真や図版を多様した媒体ではなく、文章が中心の書籍を読むことを前提としている。

 ラインアップは、画面サイズが6型の「PRS-650」と5型「PRS-350」の2種類で、いずれも薄型・コンパクト。紙の本をイメージして携帯性を追求した。コンテンツは電子書籍ストア「ReaderStore」で購入し、USBケーブル経由で本体に転送する仕組みだ。

ソニーマーケティングの磯村英男コンスーマーAVマーケティング部門メディア・バッテリー&AVペリフェラルマーケティング部統括部長

 Readerの強みは、電子ペーパーを採用している点。タッチパネルは赤外線で指の位置を認識し、電子ペーパーの上にタッチ専用のパネルを重ねていないので、文字が見やすいのだ。ソニーマーケティングの磯村英男コンスーマーAVマーケティング部門メディア・バッテリー&AVペリフェラルマーケティング部統括部長は「文字がくっきり見えて、かつ省電力」とメリットを話す。

 現在の主なユーザーは、デジタル製品や新しいものを好む30-40代男性が中心。しかし、今後は高齢者や女性の取り込みを狙う。「事業を継続しながらターゲットを定めていく」(磯村統括部長)。

Reader(左からPRS-350、PRS-650)

 興味深いのは、「ReaderStore」で展開しているさまざまな仕掛けだ。ユーザーが新しい書籍と出会えるよう、遊び心のある演出を散りばめている。例えば、「好奇心の本棚」では、画面上に表れた本棚に「クラシックカメラ」「サボテン」「ぬいぐるみ」など好きな小物を置くと、関連する書籍が表れる。

 また、ソニーマーケティングの地図サービス「PetaMap」と連携して提供する「本の地図」では、作品中に登場する地名を地図上に表示する。ユーザーは、自分にゆかりのある地名を含む作品や、これから予定している旅先に関連する地名を含む作品を読むことができるわけだ。

ReaderStoreの「好奇心の本棚」
(クラシックカメラとサボテンを棚に置いたところ)

 こうした仕掛けをサイトに導入した狙いについて、ソニーマーケティングの新井裕ネットワーク推進部統括部長は、「ユーザーの好みに応じて情報を提示するリコメンド機能や検索だと、ユーザーの志向がどうしても偏ってしまうから」と話す。ReaderStoreでは、ベストセラーのような有名な作品を揃えるのはもちろんだが、「好奇心の本棚」や「本の地図」など多彩な仕掛けを通じて、ユーザーの潜在的なニーズを引き出していく。

 ちなみに、磯村統括部長が想定外だったのが、専用のブックカバーの売れ行きが好調だったこと。「通常タイプで価格が3675円という購入しやすい価格が受け入れられた。また、フタの端にマグネットを採用しているので、持ち歩くときに開閉を防いでくれて、使いやすいことがうけた」と分析している。

ソニーマーケティングの新井裕ネットワーク推進部統括部長

 ReaderとReaderStoreによって、「いつでもどこでも読みたい本が読める環境を提供していく」と磯村統括部長。「紙の書籍に電子書籍が上乗せされるかたちで、出版業界の市場全体が広がっていくだろう」とみる。また、新井統括部長は「Readerが日常生活に溶け込むようになってほしい。ユーザーが今よりもたくさんの書籍に出会うことができるような、よりよい生活を提供していきたい」と語った。

 シャープとソニーの取り組みから見えてきたのは、電子書籍は、コンテンツの提供数だけで勝負するビジネスではないということだ。もちろん、ユーザーがある程度選ぶことができるボリュームは必要だが、それよりも、端末やサービスの利便性、何より「使っていて楽しい」とユーザーが思うような仕掛けをどのように提供していくかが、今後、問われていくだろう。(BCN・井上真希子)