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<KeyPerson>カインズ土屋社長、製造小売りで同質競争から脱却

インタビュー

2016/10/28 12:00

 人口減少やインターネット通販の台頭で、小売業界を取り巻く環境は厳しさを増している。大手家電量販店やGMSで店舗の縮小や撤退が相次ぐなか、カインズは2020年まで右肩上がりの成長戦略を描く。経営の柱となっているのが、開発から生産、販売までを手がける製造小売り(SPA)だ。「これから、もっと広げることができる」と可能性を語る土屋裕雅社長に、カインズ流経営術の極意を聞いた。

取材・文/廣瀬 秀平
写真/川嶋 久人


カインズの土屋裕雅社長

消費者との距離感が大切、「品質管理」に抜かりなし

――SPAをスタートさせた経緯について教えてください。

土屋 同質競争からの脱却ですね。2002年に僕が社長になったころは、お金さえ出せば、簡単に大型店がつくれる状況でした。店に展示している商品は、他社の店にもあるもので、違うのは値段だけ。本当にそれでいいのかと疑問に感じたのがきっかけです。

 いい時ばかりではありませんでしたが、自ら開発して製造した商品が、お客さんから「あの商品がよかった」と言われるわけですよ。商品を仕入れて売っていた時とは全然違う快感を覚えてしまいましたね。お客さんの声に勝るものはないですよ。
――商品開発に社員やパートなど全従業員が参加できるのはすごいことですね。

土屋 全従業員が意見の言える窓口を設けています。年2回の展示会の時は、全国からたくさんの人が訪れて、顧客である主婦層の意見を集約して話し合う場所をつくっています。僕が出席した時は、ハムスターのケージについて、何がいいかを話し合っていました。ハムスターは夜、滑車で回るじゃないですか。それを発電に応用できないだろうかと。どうでもいいことも話し合い、すべてが商品化につながるわけではありませんが、少なくともカインズに参加することで、商品づくりに加担しているという意味合いを持たせています。

――商品開発で心がけていることは。

土屋 メーカーで製品をつくる側の人は、自分の経験や、従来から付き合いのあるメーカーや問屋から聞いていた知識もあるので、自分の発想でつくる製品が一番だという思い込みがあります。むしろ、一番だと思ってつくるくらいの気概がないとだめなのでしょうが、お客さんの常識と一致しないことがあります。その差が開いてしまうのは問題だと思います。お客さんとの距離をどれだけ縮められるかが、商品開発のポイントですね。

――SPAというと、品質の問題があります。不具合が起きた場合は製造責任が問われます。SPAを手がける上で、品質管理は高いハードルだと思うのですが。

土屋 ナショナルブランド(NB)がやっているような品質管理レベルを無視して、僕らなりのルールでやっていいというわけではありません。家電製品の場合は法律もあります。順守しなければいけないことをしっかり守れるように、社内の品管体制は強化していますし、商品をつくる際、クリアしなければならない決まりもいくつかあります。プロパーの人だけでは、なかなかNBレベルの管理はできないので、家電メーカーの出身者にも意見をもらっています。
 

売上高と売場面積の推移

カインズらしさ”で売上拡大へ、「改善の余地はまだある」

――売上高が20年まで右肩上がりで伸びると見込まれていますね。

土屋 NBが強い家電流通業界と異なり、ホームセンター事業の場合、それぞれの分野でダントツに強いメーカーはありません。そのため、オリジナル商品を開発して、つくって売る余地があるのです。製造小売りを推進することで、「暮らしを改善する」というカインズらしさにつなげられると思っていますし、これからもっと広げていけると思っています。

 さらに、ペットからガーデニング、DIYとさまざまな分野の中で商品開発が進んでいて、ある程度、定着している分野もあれば、まだまだというところもあります。今の商品群のなかでも、改善できる余地はまだあるのです。
 

「カインズらしさが期待されている」と語るカインズの土屋裕雅社長

――家電量販店もプライベートブランドの取り組みを強化していますが、なかなか御社のようにはいきません。難しさはどこにあるのでしょうか。

土屋 お客様が求めているものが違うのだと思います。僕らのところに、最新型のテレビや調理家電は期待されていません。機能を絞った家電製品をNBを持つメーカーと一緒に開発することはありますが、カインズらしい商品として期待されているのは、扇風機やトースターといった少し雑貨に近い家電です。

 例えばトースターは、パンが焼けることが一番大事で、それ以上の役割としては、部屋のなかで違和感のないデザインであればいいと思っています。「世界に一つだけの」とか「焼ける方法にこだわった」ということは重要ではありません。

<カインズ土屋社長、出店形態を多様化させ、新たなニーズを開発へ>に続く
 
■プロフィール

土屋裕雅(つちや・ひろまさ)
1966年9月生まれ、群馬県出身。90年4月野村證券入社。96年いせや(現ベイシア)入社。98年1月カインズ入社。98年5月同社取締役、2000年同社常務取締役、02年同社社長(現任)

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◇取材を終えて

25都道府県で200店(2016年2月期)のホームセンターを展開するカインズ。2002年、36歳の若さで父親から社長を譲り受けた土屋裕雅社長は「同質競争からの脱却」を旗印に、オリジナル商品の開発から製造、販売までを一貫して手がける製造小売り(SPA)に着手。今では売上高の約4割を占めるまでに成長させた。取材中、印象的だったのは「お客さんの声に勝るものはない」という言葉。常に消費者を第一に考え、商品開発の際に現場の声を大切にする土屋社長の姿勢は、これからも成長を続けるための鍵となるに違いない。(鰹)
 
 
※『BCN RETAIL REVIEW』2016年11月号から転載