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“生録”は広がるか、生録普及委員会に聞く録音文化のこれから

インタビュー

2010/05/27 11:10

 ICレコーダーよりも高音質な録音ができるリニアPCMレコーダー。2004年10月、ローランドが国内初の民生機「R-1」を発売してから5年以上が経ち、メーカー各社が参入、ラインアップを拡充してきたことで、市場は盛り上がりをみせている。そこで、日本オーディオ協会の一組織である「生録普及委員会」に、リニアPCMレコーダーを使ったいわゆる「生録(なまろく)」の普及施策について、話を聞いた。

生録の楽しさをイベントで伝える



 生録普及委員会は、09年2月、横浜で開催した日本オーディオ協会主催のオーディオビジュアルの総合展示会「A&Vフェスタ2009」をきっかけに誕生した。委員会は、名前のとおり1970年代に流行したライブレコーディング(生録音)、いわゆる「生録」という録音スタイルを再度普及させることを活動の目的としている。

家電量販店の売り場にはリニアPCMレコーダーがずらりと並ぶ
(東京・ビックカメラ新宿西口店)

 具体的な活動は、生録の楽しさをユーザーに知ってもらうためのイベントが中心だ。「A&Vフェスタ2009」に加え、09年11月には「オーディオ&ホームシアター展」を東京・秋葉原で開催。企画・立案も手がけた。

 発起人は、日本オーディオ協会の校條亮治会長。「音楽を録る喜びを復活させたい」という思いから、校條会長は録音機器メーカー各社に自ら足を運び、協力者を募ったという。

 生録普及委員会に参画しているメーカーは、オリンパスイメージング、コルグ、ズーム、スタート・ラボ、ソニーティアック、ローランド(五十音順)。このほか、オーディオ専門誌の出版社である音元出版、ステレオサウンド、誠文堂新光社、リットーミュージックが加わっている。また、関連団体として、日本レコード協会と日本プロフェショナル録音協議会も加入している。

校條亮治・日本オーディオ協会 会長
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プロ並みの音質が手に入る時代に



 ここで、生録に欠かせないリニアPCMレコーダーについて、簡単におさらいしておこう。リニアPCMレコーダーは、携帯電話をひとまわり大きくした程度の小型ボディで、CDと同等かそれ以上の音質で録音できるポータブル録音機器だ。

ICレコーダーに定評のあるメーカー各社のモデル
左からオリンパスのLS-11、三洋電機のICR-PS605RM、ソニーのPCM-M10

 ICレコーダーのようなビジネス用途に加え、プライベートでの録音を想定している。例えば、楽器演奏の録音や、鳥や虫の声を録るフィールドレコーディング(野外録音)、鉄道の走行音を録る、街中の音を録るなど、使い方はさまざまだ。

 ファイル形式はWAV。音質は、録音する音声のきめ細かさを示す「サンプリング周波数」と「量子化ビット数」が一つの目安になる。CDの音質44.1kHz/16bitのほか、業務用としてスタジオなどで使用する96kHz/24bitといった高音質もある。リニアPCMレコーダーなら、プロと同等の音質が手軽に手に入るのだ。日本オーディオ協会 生録普及委員会の岩出和美主査は、「昔は96kHz/24bitなんて考えられなかった」と振り返る。

岩出和美・日本オーディオ協会 生録普及委員会 主査

 ちなみに、リニアPCMレコーダーは、「BCNランキング」ではICレコーダーのジャンルに入る。ICレコーダー全体におけるリニアPCMレコーダーの割合は徐々に増えており、2010年4月は販売台数で33.3%、販売金額で50.1%に達している。家電量販店のなかには、ICレコーダーとは別に専用のコーナーを設ける店もあって、認知度は高まってきている。

 記録媒体であるメモリカードの価格が下がり、大容量で録音ができるようになったことも、リニアPCMレコーダーの普及を後押しした。しかもリニアPCMレコーダーの価格は、現在2万円台後半から5万円前後で、少し背伸びをすれば手の届くレベルにある。岩出主査は、「手軽にスナップサウンドが楽しめる時代になった」と話す。

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ライブ演奏を録音できる合法的な仕組みを作る



 生録普及委員会は、生録をどのように広げていこうと考えているのだろうか。校條会長が最も注目しているのは、アーティストのライブの録音だ。手数料を払えばライブの録音を許可する、という仕組みをつくるべく、現在アーティストに働きかけているという。「例えば、生録を許可した人にはバッチを付けてもらい、ライブの最前列の席で録音OKにする。そうした仕組みがひとつの市場になる」と校條会長は考えている。

各社はリニアPCMレコーダーの音質のよさを伝えるため、録音体験会を実施
(写真はローランドの製品発表会)

 現在の音楽市場は、ダウンロード販売は好調だが、CDの売り上げは低迷している。「レギュレーション(規制)を合法的に変えていかないと、ブレイクスルーしない。そうでないと、エンタテインメント市場はダメになる」と強い危機感を抱く。ライブ録音の許可は、こうした業界の構造を変える一つの起爆剤となる可能性がある。

楽器録音に強い各社のモデル。
左から、ズームのHandy Video Recorder Q3、ティアックのDR-2d、ローランドのR-05

 リニアPCMレコーダーの製品戦略も、見直す必要がある。「楽器を演奏する層をターゲットにすることはもちろんだが、マーケティングとしては、楽器を弾かないような初心者もターゲットにしなければいけない」。生録のすそ野を広げるには、委員会の活動だけでなく、参画しているメーカーの製品戦略を見直すことも不可欠なのだ。

 このほか、委員会の広報活動を強化し、日本オーディオ協会のサイト内に生録に関するホームページを開設する予定だ。楽器を日常的に演奏している人をターゲットに訴求していく。加えて、野外録音をする人や、アーティストのライブを録りたい人に向けて「音楽と録音の楽しさ」を伝えていく予定だ。

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常設の「生録塾」で初心者にもアプローチ



 一方、岩出主査は、これまで実施してきた大きな規模のイベントだけでなく、生録の啓発をする比較的小さな常設スポットを作ることを明らかにした。6月19日、東京都世田谷区の松本記念音楽迎賓館に「生録塾」を開講する。規模の小さな講座を開くことで、初心者でも参加しやすいよう配慮した。

 講座は、音をうまく録る方法やリニアPCMレコーダーの活用方法などを紹介する。普及委員会では、「子どものピアノを録音する」といった身近な使い方を例に、録音について学ぶきっかけにしたいと考えている。このほか、大規模なイベントとして、「オーディオ&ホームシアター展」を11月21-23日に開催する予定だ。

川のせせらぎや鳥の声を収録する野外録音

 イベントについては、「音楽だけでなく野外録音も取り入れられればと考えている」(岩出主査)という。野外録音といえば、「A&Vフェスタ2009」でコーディネータを務めた自然音の録音家、ジョー・奥田さんが有名だ。岩出主査は、奥田さんが屋久島で録音した作品を例に挙げて、「音を聴くとそこの風景が頭に浮かんでくる。写真と組み合わせるとよりインパクトは大きくなる」と、野外録音の魅力を語った。

 岩出主査は、写真と音を組み合わせる身近な例として、デジタルカメラと一緒にリニアPCMレコーダーを旅行に持って行く、という方法を挙げた。「デジタルカメラとの相乗効果でおもしろい作品ができるのではないか」。さらに、子どもがいる家族なら、子どもの運動会の記録でもいい。デジタルビデオカメラで映像を撮り、それとは別に音声を録音して、後で編集の時に映像と音を組み合わせる。すると、ビデオカメラの高画質に見合う臨場感溢れる音質が手に入る。普及委員会は、このような映像機器と組み合わせを、これから具体的に提案していく予定だ。

一番手前が民生用のリニアPCMレコーダー第1号のローランド「R-1」

 活動を行っていくうえでの課題は、Webサイト上に音声作品を展示できる環境がまだないことだ。現段階では、WAV形式の容量だとサーバーが追いつかないのだという。映像でいう動画共有サイト「YouTube」のような、ユーザーが録音したファイルを自由に公開できる場を検討しているところだ。生録普及委員会は、こうした新しい取り組みも視野に入れながら、生録の楽しさを伝えていく。(BCN・井上真希子)


*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店からPOSデータを毎日収集・集計している実売データベースです。これは日本の店頭市場の約4割をカバーする規模で、パソコン本体からデジタル家電まで127品目を対象としています。

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