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「地震が来る!」を知らせる「緊急地震速報」サービス、参入相次ぐ

特集

2006/12/08 02:10

 気象庁は8月、「緊急地震速報」を開始した。地震の最初の揺れ「初期微動」を観測し、現在地に揺れが到達する前に地震が起こることや推定される震度などを知らせるもので、これを利用したサービスが本格化している。現在、情報の提供先は企業や団体などに限られているが、この12月から個人向けの情報配信実験も始まった。今後、拡大が予想される「地震速報」サービスについてまとめた。

●気象庁の「緊急地震速報」とは?

 気象庁の「緊急地震速報」は、日本全国に1000台設置した地震計を使って、地震発生直後に震源に近い地震計で捉えた観測データを解析し、震源地や地震の規模(マグニチュード)を即座に推定、情報を発信するサービス。各地点で最も強い地震波が到達する時刻や震度を推定し速報するため、揺れる直前に「まもなく地震が来る」という情報を得ることができるのが特徴。配信は気象業務支援センターが行っている。情報は有料で月額約5万円。


 この「緊急地震速報」は地震予知ではなく、震源近くで地震が発生した直後に解析を始めるため、現在地に揺れが到達するまでの時間的余裕はほとんどない。一般に数分から数十秒といったレベル。しかし、短い時間でも使用中の火を消したり、落下物から身を守る場所に移動するなどの行動をとることで、命を守る確率が格段に高まることから、その有効性が注目されている。

●個人向けの配信実験もついに始まった

 これまで、企業や団体などに限られていた情報の提供先だが、「緊急地震速報」を活用した個人向けサービスの実験も始まった。実験に参加しているのは、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)と気象情報配信のハレックス、ヴァル研究所、気象庁。


 インターネットとPCを使ってNTTコムの次世代インターネット技術「IPv6」の通信網で全国の実験参加者に地震の速報を同時配信する。参加ユーザーは専用ソフトをパソコンにインストールし、IPv6のネットワークに接続すれば利用できる。

 「緊急地震速報」をネットワーク経由で受信すると、事前にユーザーが設定した地域に基づいて、予測震度と最も強い地震波が到達するまでの時間をソフトが計算。パソコン画面上にポップアップウィンドウで表示する。さらに音声でも知らせる。NTTコムが事前に行ったテストでは、速報の発表から約1秒でパソコンに情報が表示されることを確認したという。


 ユーザー側では、NTTコムのインターネット接続サービス「OCN」の会員が実験に参加できる。参加費用は無料だが、NTTコムのIPv6サービスの利用が必要なため、オプション料金が月額315円かかる。

 3社では、実験を通じてサービスの精度や品質などを検証するほか、技術や運用方法などを蓄積。気象庁が個人向けの情報配信を解禁した際にはすぐに正式サービスに移行したい考えだ。商用サービス開始時の料金などの詳細は未定。早川哲司・NTTコミュニケーションズOCNサービス部担当部長は「(正式サービスになれば)ネットワークを使った個人向けの付加価値サービスとして大きなビジネスになる」と期待を示す。

●月額1250円でサービスを提供する企業も登場

 一方、ウェザーニューズは企業や個人事業者向けに月額1250円の低価格サービスを11月16日に開始した。サービス名は「The Last 10-Second」で、インターネットに接続できる環境とパソコンがあれば利用できる。初期費用やメンテナンス料などは不要で、料金は年額1万5000円の一括払い。

 利用方法はサイトから専用アプリケーションをパソコンにダウンロードした後、「現在位置」「通知して欲しい震度」「マグニチュード」などを設定。地震が発生し、緊急地震速報が配信されると、インターネット経由でユーザーのパソコン上に警告音と警告画面で知らせる。地震が起きた後の各地の詳細な状況を確認することもできる。また、携帯電話にメールで通知することも可能だ。


 アプリケーションでは訓練モードも用意。自分が設定した地域で地震が起きた場合、震度、到達時間や状況がどのようになるかをシミュレーションして地震発生時の訓練を行うこともできる。シミュレーション用に約200ケースのデータを揃えた。

 ウェザーニューズでは個人向け配信を視野に入れ、インターネット回線とパソコンを利用するシステムを採用した。来年1月末までは試用期間として無料で提供する。現在NPO(特定非営利活動法人)や小規模事業者など5-60件の申し込みがあるという。

 インターネット回線を使っての地震速報の配信は手軽にサービスを受けることができる一方、ネットワークが混雑した場合には情報が遅延するおそれもある。こうした点についてNTTコムでは「通信品質が安定しているIPv6を利用することでカバーできる」(鈴木聡介・OCNサービス部担当課長)と話す。一方、ウェザーニューズでも「VPN(仮想私設網)などの専用線サービスを用意するほか、通信会社と組んで安全で安定性のあるネットワークを使ったサービスも考えている」(広報)としている。

●ADSL専用線や衛星通信で配信精度を高める

 すでに専用線を使ってサービスを始めている企業もある。システム開発の三菱スペース・ソフトウエアとJFEシステムズは、ADSLの専用線を使うことで品質を確保した。


 2社が提供する企業向けの緊急地震情報配信サービス「MJ@lert(エム・ジェイ・アラート)」は配信システムから企業などに設置した専用の受信・警報装置「緊急箱」に地震発生の情報を知らせる。「緊急箱」は、配信システムから設置された地域へ揺れの「到達までの余裕時間」と「予想震度」の速報を受信し、予め設定した震度を超えた場合に、付属の警告灯とスピーカーで警報を発する。

 配信はインターネット経由で行うが、専用回線を利用するため「VPN並みの安定した配信が可能」(三菱スペース・ソフトウエア)という。サービスは受信・警報機器と専用のADSL回線のセットで販売。税別価格は、専用の受信・警報装置が20万円、固定IP付きで通信速度が12Mbps(メガビット/秒)のADSL回線、1回線と情報配信を含めたサービス利用料が月額3万5000円。

 電波を使ったサービスも登場している。宇宙通信では通信衛星を利用して地震速報を専用受信機に一斉配信する企業向けのサービス「SafetyBIRD」を開始した。


 「衛星通信を使うため、情報の遅延を心配することなく正確に情報を配信できる上、地震などで回線が寸断される心配もない。また、回線の混雑とも無縁で、第2、第3報の情報もすぐに伝送できる」(宇宙通信)のがメリット。全国どこででも1秒以下で情報が受信できるという。


 サービスは専用受信機とパソコンなどを接続して利用する。専用受信機は現行機が1台60万円。来年1月には40万円程度の新型受信機の投入も予定している。サービス利用料は1台につき月額3万円で、現在、4-50社が利用している。

 法人向けの速報配信サービスは、このほかにも鉄道総合技術研究所のグループ会社ANET(川崎市)も開始しており、ソフトバンクテレコムや住友商事東北など5社もコンソーシアムを組んで参入した。気象庁に届け出を出し、速報の利用が可能になった企業や団体、研究機関は11月29日時点で243で、今後もサービスに乗り出す企業は拡大しそうだ。

●07年には個人向け配信解禁へ、GPS携帯での利用も視野に

 今後のサービス普及のポイントは、06年度を目標に気象庁が予定している個人向けの「緊急地震速報」の提供だ。個人向けサービスを視野に実験を行うNTTコムなどをはじめ、現在法人向けサービスを行っている企業でも個人が利用するようになれば普及が進むと見ている。新たに参入する企業も増えそうだ。

 また、個人向け配信が可能になればパソコンだけでなく、携帯電話やPDA(携帯情報端末)などで一般ユーザーが情報を手軽に入手できるようになる。携帯電話会社の中にはGPSなどと組み合わせたサービスの研究を進めているところもあるという。NTTコムの早川部長は「個人向けの情報配信が可能になった時にはグループのNTTドコモと組んで携帯電話向けのサービスも考えている。そうなれば利用も広がる」と話す。

 有効なサービスである一方、精度などで問題点もある。実際気象庁が行った約1年半の試験運用では1観測点のデータを使った速報で20件の誤報が発信されたという。しかし、多少の誤報があったとしても、地震が起きる直前に地震の時刻や規模を知ることができるというのは、画期的なサービス。地震の規模が大きくなれば、地震の瞬間にいた場所がほんの数メートル違っただけで生死を分けることもある。精度の向上と同時に個人向けサービスの解禁による一般への普及が待たれる。