【シンガポール発・道越一郎】 薄型テレビの流行は、今や日本やアメリカ、ヨーロッパに留まらず、全世界的に広がりつつある。特にBRICsと呼ばれ、これから大きな経済成長が期待できるブラジル、ロシア、インド、中国では、市場の爆発的な広がりが予想されている。こういった地域で今、薄型テレビを中心としたデジタル家電はどのように浸透しているのだろうか? ロシア、インドをはじめ、アジア、中近東、アフリカを一挙にカバーする、東芝シンガポール(TSP、TOSHIBA SINGAPORE PTE LTD)の中山純史社長にその動

【シンガポール発・道越一郎】 薄型テレビの流行は、今や日本やアメリカ、ヨーロッパに留まらず、全世界的に広がりつつある。特にBRICsと呼ばれ、これから大きな経済成長が期待できるブラジル、ロシア、インド、中国では、市場の爆発的な広がりが予想されている。こういった地域で今、薄型テレビを中心としたデジタル家電はどのように浸透しているのだろうか? ロシア、インドをはじめ、アジア、中近東、アフリカを一挙にカバーする、東芝シンガポール(TSP、TOSHIBA SINGAPORE PTE LTD)の中山純史社長にその動向を聞いた。

今、薄型テレビが一番熱いのは「ロシア」だ

 TSPは、その名の通りシンガポールに本拠地を置きながら、カーバするエリアはアジアはもとより、オセアニア、ロシア、アフリカまで、およそ65カ国と広範囲にわたっている。テレビやプロジェクター、DVDプレーヤーなどをはじめ、白物家電やパソコンなども手がけているが、特に力を入れているのは、世界共通ブランド「REGZA」を中心とする液晶テレビだ。

 中山社長は「今注力しているのは、成長が著しいロシア市場」と語る。「ロシアは、国土が広い上に20代から30代の若年人口が多く、購買力はダントツ。この1-2年で売り上げが急激に伸びている。さらに、都市部に住んでいる人が、英語を話せる点も魅力だ。インドも重要だが、ロシアの伸長には目を見張るものがある」(同)という。

 こうした急成長を背景に東芝では、いち早く現地法人を立ち上げるなどして、ロシアビジネスの本格化に着手した。現状ではサムソンやLGなど、既に大部隊で販売展開する韓国勢が先行して販売台数シェアを握る。「東芝はまだマーケットシェアは1桁台だが、今後12-13%のシェア獲得」を目指す。一方「松下やソニーも、いずれ同様に本腰を入れてくるだろう」と見ている。


 TSPの生産拠点は現在、そのほとんどがインドネシアのジャカルタ工場。シンガポールをハブとして、ロシア、アフリカにもジャカルタから製品を送り出している。東芝はイギリスにも工場を持っているが、ユーザーの好みがアジアに極めて近いロシアでは、多少物流コストをかけてもジャカルタから出荷したほうが効率がいいからだ。とはいえ、製品が到着するまで、海路のみの南アフリカで約1ヶ月弱。モスクワまでは海路と陸路で約1ヶ月かかる。ほぼ全世界とも言える広範なエリアをカバーするTSPでは、物流コストの問題は決して小さなものではない。

 例えば南アフリカでも現在液晶テレビがよく売れているが、商談に際しては、値段やスペックもさることながら「容積率」が大きく影響するという。「要はコンテナに何台入るのか、ということ」。物流コストの比率が大きいからだ。逆に言えば、一度にたくさんの製品を輸送できるよう、製品の梱包を小さくするだけで、一挙に物流費が下がっていく。部品点数を1点削って数ドル下げる、といった製品面でのコストダウンよりはるかに効率が高い。

 BRICsの一角、インドも重要拠点の1つ。ここも「サムソンとLGの牙城」だというが、TSPでも既存の有力代理店とうまく共存しながら、近くテレビとパソコンの本格的販売を開始する予定だ。ロシアに次いでインドも、今年に入って競合各社の動きが激しい。

 一方、8000万人の人口を擁する共産主義国家ベトナムは、全部が、いわば中流階級。住宅のコストはきわめて低く、所得は着実に上がってきている。テレビの普及率は既に100%に近い。薄型テレビについても、「もともとが少ないので伸び率は大きく見えるが、この1年で薄型テレビの売り上げは倍増している」。

 しかし、薄型テレビの普及という点では、まだこれからの状態。中山社長は「薄型テレビへの買い替えブームが起これば、非常に大きなインパクトがある。潜在力はきわめて大きい」と期待を寄せる。ベトナムの量販店は、LG、ソニー、サムソン、東芝、松下、シャープと各社薄型テレビに力を入れているが、「最後は販売力。同じようなものが出てくると、販売力の勝負になるため、結局販売ネットワークの力や製品ラインアップの幅広さがモノを言う」ようだ。


●各社が撤退していくブラウン管型では、逆にチャンスも

 薄型テレビが急激に伸びているとはいえ、地域によって濃淡はある。アセアンの途上国を多く抱えるTSPでは、ブラウン管型テレビの販売台数が多い。なかでもブラウン管型の比率が高いのは東南アジアだ。特にベトナムとインドネシアでは約9割がまだブラウン管型だという。所得水準からすると、このエリアではしばらくブラウン管が残りそうだ。

 ブラウン管型テレビが現在直面している問題は、原材料費の値上がり。特に銅価格高騰の影響が大きい。ブラウン管に大量に巻きつけるコイルは銅線。銅価格の高騰は直接コストに跳ね返り、1台数10円も価格が上がってしまうこともあるという。

 コストに関しては、「現在もう一度見直しをかけているところ。テレビ本体はコストダウンの余地は小さいが、リモコンを徹底的にシンプルにすることで、コストの削減を図る。さらに、製品の一部を現地で組み立てる方式をとることで、その分梱包を小さくして効率よく輸送するなど、さらなるコストダウンも可能」と自信をのぞかせた。画面サイズに関しても、現在展開している、丸玉型、及びフラット型の21、25、27、29型から一気に縮小、21、29型ぐらいに絞り込んでいく予定だ。

 「ブラウン管はなくなると言われていて、現在サムスンと松下、中国企業ぐらいしか展開していない。しかし、こうしてメーカーが絞り込まれてくると、逆にビジネスチャンスが訪れるかもしれない」と、中山社長はブラウン管型でのビジネスにも意欲を語った。

 同社の06年販売台数見通しでは、対前年比で、ブラウン管型の約4割減に対し、薄型テレビは3倍を超える伸びを見込む。薄型テレビの製品単価はブラウン管型に比べ5-10倍程度であることを考えると、売り上げの伸びはさらに拡大することになる。薄型化の流れは顕著だ。主力になる日もそう遠くはないだろう。

●録画文化は日本だけ?

 大型の薄型テレビにとって、ハイビジョンコンテンツはなくてはならない存在。しかし、TSPの管轄エリアでハイビジョン放送が始まっているのはオーストラリアぐらい。ほか各国は「まだまだ」の状況だ。これでは、せっかくの高画質が生かせないと考えがちだ。しかし、実際は放送ではなく「DVDやHD DVDソフトで、映画などを視聴する」パターンが多くなりそうだ。


 もともと、シンガポールでは「コンテンツが面白くないため、録画してまでテレビを観るといった文化がない」。これはシンガポールに限る現象ではなく、おそらく日本を除く各国で同じだという。そのため、「録画機能のついたDVDレコーダーは期待するほど売れない。再放送もいろんなところでやっているため、録再レコーダーの市場性は薄い」というのだ。主流は「DVDソフトを買ってきて映画やドラマのコンテンツを買って観ておしまい」というスタイル。逆に言えば、放送コンテンツでなくとも、HD DVDなどできちんと高画質のソフトが提供されれば、そのコンテンツを購入することには抵抗はなさそうだ。


 実際、シンガポールの3大量販店といわれる、豪州系の「ハービー・ノーマン」、英国系の「コーツ」、日本系の「ベスト電器」を回ってみても、録画機能付きのHDD搭載型DVDレコーダーを目にすることは、ほとんどなかった。「録画した番組をフレーム単位できっちりと編集して保存しておく、などという文化は世界のどこを探しても、おそらく日本だけ」と、TSPの誰もが口をそろえて語っていた。

 ちなみに、ニー・アン・シティのシンガポール高島屋S.C.内に出店する日系の量販店「ベスト電器」で、テレビの販売動向を聞いてみたところ、やはり主流は液晶を中心とした薄型だという。実際テレビの展示スペースのほとんどを液晶テレビが占めていた。主流のサイズは32型から40型へシフトつつあるということで、大型化も徐々に進んでいるようだ。


●「ワールドツアー」で図る広範なエリアの販売力の維持・強化

 TSPでは、こうした広域の販売エリアをまとめるため「ワールドツアー」を毎年開催、新製品の紹介や販売優秀国の表彰などを行っている。アジア、アフリカ、ロシア、オセアニア、中近東の各地域から有力代理店や現地法人スタッフなどが一堂に会する大イベントだ。おととしは東京、昨年は上海で開き、9回目の今年は「Dreams Come True」と題し、8月25日にシンガポールで開催した。参加者は43カ国から380名。今回の目玉は、なんといっても世界共通ブランドのデジタル液晶テレビ「REGZA」。「世界全体で情報格差がなくなっていくなか、同一ブランドで展開していく戦略」のひとつだ。

 イベントは、ドイツのデザインアワードred dot賞の博物館を会場に、新製品の詳細説明から始まった。30-50名程度の小グループに分かれ、各コーナーを「ツアー」のようにめぐる仕組みだ。まず、現在アメリカと日本だけで販売しているHD DVDレコーダーの「RD-A1」とHD DVDプレーヤーの「HD-XA1」を参考出品、高精細の映像を紹介していた。これらHD DVD機器は、今年の年末商戦で欧州での展開を予定しているという。

 次のコーナーで、いよいよ「REGZA」の「68シリーズ」、「66シリーズ」の11機種に加え、オーストラリア専用の「デジタルIDモデル」を合わせた14モデルがお披露目された。同時に「メタブレイン・プロ100」の「効き」もデモンストレーション。画像の補完技術を解説しながら、実際の画面表示を通じて処理の前後で明らかに画面の鮮明さが異なることをアピールしていた。


 また、プロジェクターの展示では、学校(朝)、オフィス(昼)、リビング(夜)と、それぞれ明るさの違う時間帯で利用シーンを再現。特に目を引いたのは、家庭用の短焦点型プロジェクター「TDP-ET10」。スクリーンまでわずか1.2mの距離で100インチの画像を投影できる日本未発売モデルだ。日本発売の計画はあるが発売時期はまだ決まっていないという。そのほか、REGZAブランド以外の薄型テレビとして、日本未発売モデルのDVDプレーヤー内蔵の20型液晶テレビや、OEM生産の42型プラズマテレビ、少数ながら「Bomba」ブランドのブラウン管型テレビも展示されていた。

 最後にショッピングセンターも併設するシンガポール国際会議場「サンテック・シティ・コンベンションセンター」で、「ワールドツアー」参加者のためのディナーパーティが開催された。ここでは各国の広告戦略や製品ジャンルごとの販売優秀国の表彰も行われた。


●日本が欧米型になるのか? それとも……

 東芝の「REGZA」に限らずソニーは「BRAVIA」、シャープは「AQUOS」とそれぞれブランドをグローバル展開する時代に入った。しかし、広告表現などには国によって使えない広告表現があったりして、難しい面も多々あるようだ。例えば、東芝が日本で使用している「For your No.1」というコピーは、「No.1の指すものが不明確」という理由で、使えない国もあるという。こうしたところから、逆に日本国内の表現も、もっと世界中で通用する同一のコピーへと変わっていくのかもしれない。

 また、「全世界の常識は録再じゃない」とは今回何度も聴いた言葉だ。コンテンツの視聴方法も徐々に変化する可能性がある。放送ばかりでなく、インターネット配信なども普及すれば、好きなコンテンツがいつでも見られる環境が整い、「録っておく」という行為もなくなっていくのかもしれない。それとも、各国の放送コンテンツが充実して、逆に日本型の「録っておく」文化が広がっていくことになるのか、今の時点ではよくわからない。ただ1つ言えることは、確実に世界の市場は接近してきており、互いに大きな影響を及ぼすようになってきている、ということだろう。