【フランクフルト発・谷畑良胤】 日本代表が「歴史的な敗北」を喫した日から一夜明けた6月13日。心の傷はまだ癒えないが、同じ「アジアの雄」韓国を応援すべく「ヴァルド・シュダディオン」に駆けつけた。見事に勝利した彼らを祝福しつつ、サッカーに染まったフランクフルトの風景や、日本では見られない川の中にディスプレイを設置してのパブリックビューイングなど、W杯に沸く現地の模様をレポートする。

●よくやった韓国! 羨ましいぞ

 「2006FIFAワールドカップ」ドイツ大会で日本がオーストラリアとの初戦を落とし、他のアジア勢も成績を残せない中、次回大会に向けアジア枠を確保する上でも、韓国にはぜひとも勝ってもらわなければならない。トーゴがオーストラリアと同じ黄色のユニフォームということもあり、韓国には「何としても、この黄色を倒してほしい」と感じたのは筆者だけではないだろう。現地時間午後3時、フランクフルトにキックオフの笛が鳴り響く。全天候型のサッカー・アメフト共用スタジアム「ヴァルド・シュダディオン」で、韓国対トーゴ戦が始まった。可動式の屋根は閉めた状態。韓国の「テ?ハミング」という応援の響きがより迫力を増す。


 前半、1対0と韓国が先制を許すも、その後は一進一退。しかし後半早々、韓国20歳の新鋭・FWイ・ドントクがゴール前のフリーキックを決め同点に追いついた。点を取られてから目が覚める傾向が強い韓国は、その後もボール支配を続けながら機をうかがう。そしてついに、後半から出場した日本でもおなじみのMFアン・ジョンファンがゴール右からミドルシュートを決め逆転、初戦を勝利で飾った。

●マイン川の「中」に出現した巨大ディスプレイでパブリックビューイング

 この試合を観戦した日本サポーターは皆、こう感じただろう。「羨ましい」。日本が勝利し、「サムライブルー」を着て街を練り歩きたかった。この日、フランクフルトは韓国の赤いユニフォームを着たサポーターが目立った。さまざまな国籍のサポーターから、韓国サポーターにお祝いの言葉がかかり、一緒にファインダーにおさまる。日本人もちらほら見かけたが、筆者を含め皆が羨望の眼差しでこの光景を見ていたに違いない。

 夕方になると、フランス、ブラジルの強豪国が相次ぎ登場するため、バーやオープンテラスの飲み屋にはどこもテレビが設置された。ドイツ人をはじめとする各国のサポーターは画面の前でビール片手に噛り付くように見入っている。この様子だと、テレビ観戦ができない店には誰も寄り付かないんじゃないだろうか?

 やはり、ワールドカップは欧州がいい。サッカーを心から楽しむ文化がある。国を問わず、好プレーをすればそれを称える。ここには政治的な権力争いはなく、世界が一体感を増す。中でも圧巻は、フランクフルトの街中を流れるマイン川の中央に設置されたパブリックビューイング「Main river」だ。現地時間午後9時にキックオフしたブラジル対クロアチア戦では、立錐の余地もないほどの人で溢れかえった。後半、ACミラン所属のブラジルのMFカカがゴールすると、サンバのリズムが響き、地鳴りとともに興奮が伝わってきた。ここは今、「サッカーの聖地」なのだ。


●2000台以上のPCが支えるW杯、LANケーブルの総延長は約8000km

 このパブリックビューイングでも、日本企業として画面横に巨大ゴロが掲げられていたのは唯一「Toshiba」だけだった。「Main river」に集結したサポーターは数万人におよぶだろう。広告効果は絶大だ。東芝はこのほかにも、試合開催12都市の全パブリックビューイングを協賛。決勝戦を行うベルリンの中心地には単独の広告看板も設置したという。このほか、場所によってはコカコーラなどと共催で、来場者による「カラオケ大会」も実施していると聞いた。


 今大会で東芝がPCを各方面に供給したことについては、前回詳報した。その設置に関して報道担当責任者のマニュエル・リニング パブリックレレーションズマネージャーに「2006FIFAワールドカップ」にPCを納入した経緯などを聞くことができた。開催に向けPC設置の準備を開始したのは2年前。IPインフラ会社のアバイアや地元キャリアであるドイツテレコムと共同で、携帯電話などモバイルのネットワーク環境を考慮しつつ、ソフトウェアやハードウェアのパフォーマンステストを重ねてきたという。大会期間中、各会場などをつなぐネットワーク用のケーブルは、約8000kmにおよぶ。

 FIFAは東芝から2000台以上のPCを購入した。「腰の高さから落としても、ハードディクやPC自体が機能不能になりにくいよう実験を繰り返している。FIFAは、東芝PCが99.999%の確率で故障しないという信頼性や耐久性、バッテリー寿命の長さを高く評価した」(リニング・マネージャー)と、自ら出演する宣伝用画像を見せながら購入の理由を説明した。

 サーバーなどバックエンドのシステムはアバイアの技術者が担当した。大会期間中、試合会場やFIFA事務所などで70台のサーバーが稼動し、データ容量はVoIPなどを含め15テラバイトにものぼるという。それだけに、PCには高い耐久性が求められたのだ。

●イギリスでは「イングランド優勝でPC半額」セールも

 12会場の「メディアセンター」には、合計約100台のノートPCが設置された。近年、メディアの記者は自前のPCを持ち込むため、以前に比べ利用率は減ったが「試合後のデータ検索などに広く利用され、特にPCを持ち込まない新興国の記者にはよく利用されている」(リニング・マネージャー)という。東芝は、1985年にデスクトップしかない欧州市場にノートPCを持ち込んだ。「当時は市場も小さく、ノートPCシェアは80%を超えていた」(同)。今でもトップシェアは確保しているが、他社の攻勢も強烈になっている。それでも、「欧州人は、東芝が自ら高い技術を開発し、他社に差をつける技術を製品化している企業ということを知っている。今大会のスポンサーシップで、より『Toshiba』の認知度は高まる」(同)と期待する。

 今大会に合わせ欧州向けの限定PCで「Satellite M100-152」をベースにアディダス製公式ボールをデザインした「FIFA WORLD Notebook 2006」を、2006年をもじり2006台限定で販売されているが、すでに完売に近いという。さらに英国では、5月末までにPCを購入し、もしイングランドが「優勝すれば」価格の50%をキャッシュバックするというキャンペーンも実施した。

●システムの設計思想にも出る「性善説」のお国柄

 リニング氏が所属する欧州PC販売の拠点、東芝システム欧州社内のシステムは、現地の情報システム担当が運用サポートしている。多言語多通貨である欧州で、ERP(統合基幹業務システム)などバックエンド、SCM(サプライチェーンマネジメント)やEIPなどフロントエンドなどのシステムを預かる。1か月前、日本からドイツに入った同社の田中隆介・部長附は「現在、マイクロソフト系のIAサーバーを中核に運用し、VMwareを使い仮想化を実現すべく、システムの再構築を進めている」。ちなみにERPは、東京本社と同様に地元ドイツのSAPではなく、オラクルの「EBS」を採用しているという。

 日本でシステム再構築の機運を高める要因となっているSOX法やセキュリティなどコンプラインアンスに関しては「マイクロソフトのアクティブディレクトリなどでログ管理やセキュリティなどのシステムは完璧にしている。ドイツ人のITスキルも高いが、性善説に立っているところがある」(田中・部長附)と、個人情報の漏えい防止対策などに汲々として業務効率を落とす日本企業と違い、対策を講じれば情報漏えいはないと見てよさそうだ。

 フランクフルトで路面電車に乗る際、切符を購入するが検札がなく、自分でパンチするだけ。降りる際にも切符を調べることはない。日本と違って「キセルをする人はいない」という性善説に基づいているのだ。勤勉性や穏やかさは日本人に近いドイツ人だが、この点は、明らかに日本とは異なるドイツの国民性といえる。

●勝利を信じて待ってるぞ

 しかし、「性善説」はピッチの上では通用しない。「神の手」ゴールを狙いに来る選手もいれば、削りに来る選手もいる。ラフプレーは「よくないこと」だが、ファールも含めそれらすべてが「フットボール」だ。ただでさえ、こんなガチンコ環境なのに、すでに苦境に立たされている日本代表。もう、がむしゃらにそして集中して残りの試合、勝利を信じて戦い抜くしかない。そうすればきっと道は開けるだろう。朗報を日本で待ってるぞ、「サムライ、ニッポン!」