最終的には商品力そのものがものをいう――第84回

千人回峰(対談連載)

2013/05/22 11:27

宇佐美 隆一

宇佐美 隆一

島根富士通 代表取締役社長

構成・文/谷口一

 島根富士通は、富士通のパソコン生産拠点として1990年に創業した。プリント板から装置まで一貫製造を行う国内唯一のノートパソコン製造拠点として、「中国・台湾勢に対抗できるコスト競争力の強化」を目標の一つに掲げ、古代ロマンの郷「出雲」の地で奮闘している。日本のものづくりの強みは何か、ものづくり日本は何を目指すのかを究明するパソコン生産現場をゆくシリーズ第二弾は、島根富士通の宇佐美隆一社長をたずねて、富士通の目指すところなどについてうかがった。【取材:2012年11月29日 島根県・出雲市の島根富士通にて】

「ハードの部分のものづくりは、この工場では100%内製です」と宇佐美さんは語る
 
 「千人回峰」は、比叡山の峰々を千日かけて歩き回り、悟りを開く天台宗の荒行「千日回峰」から拝借しました。千人の方々とお会いして、その哲学・行動の深淵に触れることで悟りを開きたいと願い、この連載を始めました。

 「人ありて我あり」は、私の座右の銘です。人は夢と希望がある限り、前に進むことができると考えています。中学生の頃から私を捕らえて放さないテーマ「人とはなんぞや」を掲げながら「千人回峰」に臨み、千通りの「人とはなんぞや」がみえたとき、「人ありて我あり」の「人」が私のなかでさらに昇華されるのではないか、と考えています。
株式会社BCN 会長 奥田喜久男
 
<1000分の第84回>

※編注:文中に登場する企業名は敬称を省略しました。
 

「他と違うものづくり」を重視する

奥田 “強い日本”が“弱い日本”になってしまいました。とくにリーマン・ショックが起きた2008年以降、IT業界は2割ほど縮小したまま、ソフト開発の料金レベルも労賃も戻っていません。中国の販売店には、もう日本製のパソコンどころか家電製品を探そうと思っても見つからないほど少なくなっています。そういうなかにあって、日本のものづくりの真骨頂についてうかがえたらと思っています。

宇佐美 そうですね。今、日本でプリント板から製品をつくっている企業はほとんどなくて、日本国内で開発からサポートを一貫して行うMade in Japanのノートパソコンのおよそ85%はこの工場で製造しているという勘定になります。

奥田 国内という意味での、内製化率は何%くらいになるのでしょうか。

宇佐美 ハードの部分のものづくりは、この工場では100%内製です。

奥田 100%内製ですと、日本という非常に人件費の高い国で品質を求めた場合、それが販売価格にかかわってきて、マーケットシェアにも影響すると考えられます。たしかに内製率は100%なのでしょうけれど、それは誇りなのでしょうか。

宇佐美 はい、われわれは誇りだと思っています。もちろん、他のメーカーと同じプロダクトをつくるとなると、正しくないと思います。最近は、ちょっと他と違うものづくりの比重を徐々に増やそうと思っています。例えば、防水のタブレット端末とか、薄いウルトラブックとか、そういうバリューというのは必要だと考えています。それに日本で一貫してつくることによって、故障の少ない製品を提供することができます。量販店では5年保証とかをつけていますけれど、5年保証で富士通の製品を売ると、一番儲かるらしいんですよ。

奥田 故障がないからですね。

宇佐美 その通りです。やはりパソコンというのは、ライフサイクルコストというのが、ものすごく重要だと思っています。店頭モデルだけではなくて、企業様向けモデルはもっとライフサイクルコストがかかっているはずです。生命保険業界向けに昨年は10万台くらいつくったのですが、全部ラインのなかでカスタマイズしました。そうすれば何がいいかというと、生産効率がぐんと高まることが挙げられます。今までのやり方だと、ユーザー企業自身が倉庫を借りて、1台1台カスタマイズをされていたと思います。それがラインを通った段階で、これはなになに生命保険会社のどこ支店のどなたに届けたらいいのか、というレベルまでカスタマイズできるんです。われわれは同じものをロットでたくさんつくるというよりは、1台1台違ったものづくりを、自社の製造ラインのなかで実現できるのです。これは大きなアドバンテージだと思います。

奥田 そういう少量の1対1対応の製品を求めるお客様というのは、けっこうおられるということですか。

宇佐美 たくさんいらっしゃいますね。例えば、医療システムで富士通は高いシェアを獲得していますが、ノートパソコンはほとんどこの工場でカスタマイズして出荷しています。

奥田 こちらの工場ではビジネス向けモデルのほかには何をつくっておられるのですか。

宇佐美 コンシューマ向けと、数は少ないですが富士通のウェブ販売向けですね。あれは、当然ながら1台1台個別仕様ですから。あと海外向けがあって、カスタマイズして直接お客様のもとへ届けているものもあります。

奥田 海外向けは、市場としてどの地域が多いのですか。

宇佐美 ヨーロッパです。富士通の販売会社がありますが、そこの商圏には、われわれのところでカスタマイズしたモデルを出荷しています。

奥田 ジャンル分けすれば、この工場からの出荷比率はどのくらいですか。

宇佐美 時期にもよりますが、国内と海外でいうと、海外が2割から3割ですね。残りの7割から8割が国内です。そのなかで、企業向けと店頭向けの比率が7対3か、場合によっては8対2くらいでしょうか。あとウェブは残念ながら1以下です。
 

古代の“たたら”技術にものづくりの本質をみる

奥田 つくり込んでいく技術と商品を設計する技術とは、まったく別の技術だと思いますが、以前、あるメーカーの幹部の方と議論した折りに、つくり込む技術、彼は実装技術と表現していましたが、それは日本に相当なアドバンテージがあると断言していました。しかしその実装技術も、そろそろ日本の工場から中国の工場へシフトしているように感じます。韓国のラインは見たことがないのですけれど、中国の工場はそんな印象がありましたね。例えば繊維の工場ですと、あきらかに日本はゼロで中国に完全に移りましたが、中国の生産ラインの技術というのは馬鹿にはできないと繊維業界の方も言っておられました。そうすると、実装技術、つくり込み技術ということにおいても、日本のアドバンテージは、あと何年もつのかなという危機感を覚えるのですが……。

宇佐美 何年もつか、というような考え方は、あまり前向きではない気がします。そうではなく、日本でのものづくりのよさとして、摺り合わせというものがあると考えます。この例えとして、外見を変えることなく如何に部品の点数を減らすか、というテーマについて、毎月一回、開発部門と喧々諤々の議論をやっています。現状認識では、ベンチマークしている他社と比較して、だいたい十数%は少ない部品点数となっていますが、われわれはまだまだ頑張る余地があると思っています。

奥田 例えば、部品点数を減らしていくというのが、日本のものづくりの強さの一つだとしますと、あと何か挙げていただけないでしょうか。

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