中小企業にぞっこんで、力になりたいと願う――第36回

千人回峰(対談連載)

2009/03/16 00:00

桑山義明

桑山義明

シーガル 代表取締役社長

 桑山 社会的地位のある人もそうでない人も、感覚的には同列なんですね。だから、そのあたりはよくわからない。

 奥田 そこが、人を引き寄せる桑山さんの魅力なんでしょうね。

 桑山 ただ、私のそばにいて金儲けをしようと思っている人は少しずつ離れていきますね。でも、2~3年経つと、そういう人はちゃんと儲けているんです(笑)。

 奥田 やっぱり離れてよかった、と(笑)。

中小のITベンダーを元気にしたい

 桑山 でも、私ひとりでどうこうできるというわけではありませんが、小さなITベンダーを何とかしたいという気持ちがあります。

 奥田 その実践ケースとして先日、多摩地区の自治体、商工会議所・商工会、IT関連団体、金融機関などを集めて「たまIT戦略会議」をスタートさせましたね。

 桑山 はい。「たまIT戦略会議」は始まったばかりですが、4年前から「EC実践サポーター」という活動もしています。これまでは、ある仕事を大手が請け負い、それを中小に下請け・孫請けに出す形が一般的でした。私たちのやり方が異なるのは、元請け企業と組んだ仕事であっても、中小ベンダーが自分の会社の名刺を出させる形にしたことです。

 つまり、これまで顧客対応の窓口は元請け企業一本だったわけですが、それでは迅速な対応ができない状況になっています。そこで、たとえばトラブルの原因がアプリケーションにあると思ったら、そこを担当したベンダーに直接連絡する、というような形をとれるようにするわけです。

 インターネット経由のシステムは非常に広範囲で、1社ですべての面倒を見ることが難しくなっています。電子商取引、インターネットバンキング、電子納税なども加わり、よりシームレスなシステム・社会になってきているわけです。このため、それに対応できるフォーメーションを組む発想がないと、サポートできなくなるということですね。

 奥田 ゆるやかな連携が必要だということですね。

 桑山 そうです。まさにゆるやかな連携です。がっちりと契約書で縛るというのではなく、信頼関係が必要になってきます。当社はすでに他の地方のベンダーとそのような形で連携を図っていますが、同じ地域でこのようなフォーメーションが組めれば、そのメリットはより高まると思います。

 奥田 ところで、NPO法人のOCP総合研究所の理事長も務められていますが、これはどんなお仕事ですか。

 桑山 2000年につくった組織ですが、マイクロソフトと一緒に、オープンなネット社会におけるビジネスモデルをコンサルティングできる人材を育成しようという目的でスタートさせました。300人ほどのコンサルタントを育てましたが、すでに初期のメンバーは各地に点在しており、何かやろうというときにチームが組みやすくなりましたね。

 ここでの研修は、1週間泊まりがけでやります。酒をしたたか飲ませて翌朝一番にプレゼンをさせるという、見方によってはハードな研修ですが、中小企業では人間関係づくりと専門能力の両方が大事だと説明しています(笑)。

 奥田 何度も聞くようですが、なぜ、桑山さんの仕事は大企業ではなく中小企業相手なんでしょうね。

 桑山 中小だからみんな応援したいというわけではないのですが、特長をもっている企業ややる気のある企業はやはり応援したい。つい、「ここにITを導入すればもっと儲かるのに」と思ってしまうんですね。

 奥田 平たく言えば、世話焼きなんですね(笑)。中小企業に対するIT支援のほかには、どんなことをしておられますか。

 桑山 八王子にある大学の学生に対して「3日間カバン持ち制度」という試みをやっています。大学1年生の応募者に、文字通り、中小企業経営者のカバン持ちを、夏休みに3日間体験してもらうものです。10月に報告会をするのですが、大学の就職部の人が驚くほど、彼らの目の輝きが変わり、しっかりとした学生に変身します。

 この効果は絶大で、それまで何がわからないのかがわからなかった学生が、大学に戻って何を勉強すればいいのかはっきりと理解するんですね。仕事に没頭し、いきいきと飛び回る社長の姿を目の当たりにして、感じ取るものが大きいのでしょう。

 つけ加えて言うならば、学生にカバン持ちをさせる相手は社長でなければダメです。部長や課長など幹部クラスだと、どうしても勤務先の愚痴などが出てきがちになる。その点、中小企業を切り盛りしている社長はエネルギッシュで、愚痴など言っている暇はないし、根が明るい人が多いですから。学生も知らず識らずのうちに感化されて、何事も自らで考える習慣がつくわけです。

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