海外と女性にフォーカスする――第32回

千人回峰(対談連載)

2009/01/19 00:00

葉田順治

葉田順治

エレコム 取締役社長

「世界標準」のものづくりへ

 奥田 となると、海外戦略は重要ですね。

 葉田 ところが、残念ながら当社は海外に出ては負け続けです。1992年に最初の海外拠点をアメリカに設け、その後、イギリス、韓国、中国、ドイツ、イタリア、そしてヨーロッパの拠点を集約するためオランダにも拠点を設けましたが、結局、欧米の拠点はほとんど撤退しました。

 実は1986年に創業したときから、エレコムは日・米・欧で勝負する、とずっと思い続けてきました。私は巳年生まれだから執念深いんです(笑)。そして、創業間もない時期にCOMDEX(毎年アメリカで開催される世界最大規模のコンピュータ展示会)の会場を訪れ、出展するにはどうしたらいいかを尋ねたこともあります。

 すると、周囲の反応は「そんな小さい会社が出てどうするんだ」と冷たい。それでも、その後COMDEXに出展したところ、エレコム商品の評判は非常によかった。ただ、販売チャネルが形成されていないため、なかなかうまくいかなかったという経緯がありました。今、その体制は整いつつあり、ようやく海外展開のチャンスがめぐってきたと思っています。

 そして、7~8年前あたりから、シンガポール、インドネシア、フィリピン、台湾など東南アジアの国々から引合いが来るようになりました。現地でエレコムの代理店をやりたいというのです。シンガポールの代理店の資本金は、わずか1シンガポールドル。今の円相場だと65円程度です。そんな小さな会社が、土日も休まず一生懸命にエレコム製品を売ってくれている。

 そのわけを尋ねると「エレコムが一番だからだ」といいます。これには感激しました。私は「真似をする会社でなく、真似される会社になろう」という信条でこれまでやってきましたが、それが間違っていなかったということを、このときに改めて感じましたね。

 今は、社員に対して「売上高構成で海外9割・国内1割を目指せ」といっています。気宇壮大な目標ですが、国内で広く浅く売れればいいというのではなく、ワールドワイドに展開する会社にならなければいけません。世界を相手にしている会社は、やはり製品を磨いており、最初から世界標準で開発にあたっています。これからエレコムは、その世界標準に加えて「ジャパン・クール」でものづくりをしていこうと思っています。

デザインを重視する理由

 奥田 海外だけでなく、国内でも最近感激したことはありませんか。

 葉田 感激というか、うれしいことといえば、人が育ってきたことですね。ご存じのように、当社は製品デザインを非常に重視していますが、2008年は社内デザイナーが経済産業省のグッドデザイン賞(Gマーク)を4シリーズにわたって受賞しました。

 08年に限らず、当社では4つ、5つは当たり前になっています。大メーカーでも年に二つ程度といいますから、それだけの実力ある社員が育ってきたことはうれしいですし、誇れることと思いますね。

 奥田 どうして葉田さんは、そんなにデザインに力を入れるのでしょう。

 葉田 やっぱり好きなんでしょうね。家電や自動車のデザインにしても、私はソニーやホンダが好きです。なぜかといえば、そこに日本のアイデンティティというか独自性が感じられて、それが脈々と受け継がれていると感じるからです。

 エレコムを創業した頃、すでにマイクロソフトやインテルがありました。とても同じ土俵では太刀打ちできない相手です。そこで、ニッチな分野であるPCアクセサリやPCサプライの市場を狙ったわけですが、当時この市場の商品は、品質やテクノロジーよりも「ファーストインプレッション・ファーストタッチ」、つまり第一印象が購買につながる重要な要素だったのです。

 そこで、差別化のためにはデザインセンスが問われると考え、そこに独自性を求めたということですね。もっとも、今は品質についても厳しく問われるようになりましたけれども…。

 奥田 デザインといえば、こちらの社長室にお邪魔したとき、超一流の調度品が置かれていることに驚きました。まるで資生堂に来たみたいだと。そして葉田さんご自身も、以前はだいぶ派手なファッションでしたね。

 葉田 昔、シアトルの税関を大阪・ミナミのにいちゃんみたいな格好で通過しようとしたら、呼び止められたことがありました。「おまえ、日本のヤクザか?」って(笑)。今は、だいぶおとなしくなりましたけど。

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