最後発の「Amazon Echo」、ライバルとの戦略を比較

 スマートスピーカーの最後の大物、「Amazon Echo」がついに日本に上陸した。招待制で来週から販売する。米国ではスマートスピーカーの約7割のシェアを占める最大勢力とはいえ、日本市場への参入は後発となる。すでに10月にLINEの「Clova WAVE」、Googleの「Google Home」が発売済み。ここからどのようにして巻き返しを図るのか。


「Amazon Echo」と同時に「Amazon Music Unlimited」も発表。月額380円のEchoプランも用意する

日本に最適化された音声認識を強調 プライバシーへの配慮も

 「Alexa、音楽を止めて」―― アマゾンジャパンのジャスパー・チャン社長の一言で、オープニング前に会場で流れていたBGMが停止した。以降、発表会中は「Echo」のデモンストレーションが終始展開された。ときおり、反応できないこともあったが、それも想定内。クラウドベースの音声サービス「Amazon Alexa」の日本語対応の現時点での完成度を包み隠さず公開した。

 今回の発表のために来日したAmazon.comでAmazon Alexaを統括するトム・テイラーシニア・バイス・プレジデントは、日本向けに特化した音声認識の精度の高さを強調。「日本語の『雨』と『飴』。同音異義語であっても意図を理解して正しい認識ができる」とコメントした。
 

本国から来日したトム・テイラーシニア・バイス・プレジデント

 言語だけでなく文化に対する理解度についても繰り返し言及。例えば、プロ野球や大相撲などの日本のスポーツ情報もフォローしており、デモでは、「今年の秋場所の結果は?」と問いかけると、力士の名前だけでなく決まり手までスラスラと回答した。
 

日本の文化にも精通。スポーツの結果や祝日、ギャグまで守備範囲は広い

 ローンチ時に256スキルを用意し、各社からさまざまな連携サービスが提供される。アイテムの性質上、常に起動している必要があるため、プライバシーを危惧する声もあるが、その心配にもテイラー氏は「No Program」と太鼓判を押す。本体上部にはミュートボタンを備え、声を認識されたくないときは遮断できる。そのスリープモードも「Alexa」と呼びかければ即座に解除される。また、Alexaに蓄積された情報は自分で消去することもできる。
 

音声を聞き取れる状態のときは上部の円形のエッジが青く点灯し、ミュート時は赤く点灯する

 米国では、ディスプレイ搭載モデルもラインアップしているが、第1弾として日本市場に投入するのは、スタンダードモデルの「Amazon Echo」、スマートホームハブを内蔵した「Amazon Echo Plus」、コンパクトタイプの「Amazon Echo dot」の3機種。それぞれ七つのマイクアレイを搭載し、音声に反応してスキルをこなすという基本性能は変わらない。「Echo Plus」にはハブ機能が加わり、別途、ハブを購入するより安く、音声によるAlexa対応機器のコントロールなどが可能。「Echo dot」は「Echo」を基準とすると、内蔵スピーカーの性能はやや劣るものの、小型で価格も手頃だ。
 

日本市場に投入する3機種(左から、Echo、Echo dot、Echo Plus)

価格は最安だが、実店舗販売のある「Google Home」が一歩リード?

 ここからは先行している2社、LINE、Googleとの戦略を比較してみたい。「Amazon Echo」は、最もラインアップ数は多いが、最上位機種の「Echo Plus」のスマートホームハブ対応がまだ限定的なことを加味すると、2モデル展開の「Google Home」とイーブンといえるだろう。
 

販売中の「Google Home」と廉価版の「Google Home Mini」

 スタンダードモデルの価格は、「Amazon Echo dot」が最も安い。ただ、LINEは、18年1月31日までの期間限定で、通常は税込み1万4000円の「Clova WAVE」本体とLINE MUSIC 12か月分で1万2800円で販売するキャンペーンを実施中。LINE MUSICは月額980円のサービスなので、本体は実質1000円という大盤振る舞いだ。スキルの点では他社に劣るが、なんといっても自社サービスの「LINE」と連携するメリットは大きい。
 

正式版を10月にリリースした「Clova WAVE」

 「Google Home」は、「Clova WAVE」の通常価格とほぼ同額の1万5120円、「Google Home Mini」は3240~4860円だが、販売店が独自に実施するキャンペーンを適用すると、さらに安く手に入る。例えば、ビックカメラでは「2台同時購入で2万1600円」「Chromecastとセットで1万5120円」「対象製品と同時購入で大幅割引」など複数のキャンペーンを実施し、拡販に積極的だ。
 

ビックカメラでは「Google Home」関連で複数のキャンペーンを実施中

 「Amazon Echo」は1万1980円、「Amazon Echo Plus」は1万7980円、「Amazon Echo dot」は5980円だが、期間限定のキャンペーンとして、11月17日23時59分までに注文したプライム会員には「Echo」は4000円、「Echo dot」は2000円割り引く。また、「Echo Plus」はスマートホームハブ対応製品である「Philips Hue」のスマート電球1個をセットで無料提供する。
 

プライム会員なら最大4000円割り引く

 販路の点でみると、楽天、ビックカメラ、ヤマダ電機と実店舗でも販売している「Google Home Mini」が現時点ではリードしているといえるだろう。「Clova WAVE」は公式サイトと楽天、「Amazon Echo」はAmazon.co.jpのみの販売だからだ。

 しかも「Echo」は、まだ正式発売とは言えない段階。招待制以外での一般発売の時期はまだ決まっていないようで、これは手痛い出遅れであるように感じる。担当者と会話した印象ではあまり焦りは感じられず、サービスに圧倒的自信をもっていることが読み取れたが、はたして。しばしば市場がガラパゴス化する日本では、世界で圧倒的優位を誇る「Echo」ですら、市場で主導権を握れるかはまだ分からない。(BCN・大蔵大輔)