10月20日発売のニコン初のミラーレス一眼「Nikon 1」シリーズ。<a href="http://bcnranking.jp/news/1111/111109_21364.html">前編</a>ではボディのデザインやホールド感について触れたが、後編となる今回は一番気になる描画力について紹介する。

→前編:<ミラーレス一眼「Nikon 1」の可能性 見た目を裏切る(?)使い心地のよさ>から読む

ニコンのミラーレス一眼「Nikon 1 J1」

基本はすべてをカメラに「おまかせ」



 いざ撮影に臨んで一番困惑したのは、露出モードダイヤルがないことだった。P(プログラム)モードやA(絞り優先)モードなどを選択するダイヤルは、「Nikon 1」シリーズには搭載されていない。あるのは、「動画」「静止画」「スマートフォトセレクター」「モーションスナップショット」のどれで撮るかを選ぶ「撮影モードダイヤル」だけ。

一眼レフでは当然あるはずのP(プログラム)モードやA(絞り優先)モードを設定する露出モードダイヤルがない

 露出モードの変更はメニュー画面で行うようになっていて、基本的にはどの撮影モードでも、すべてカメラまかせで撮る「おまかせシーン」が前提となる。

露出モードの変更はメニュー画面で行う。
基本はすべてカメラまかせの「おまかせシーン」だ

 一眼レフなら入門機でも当たり前のように備えている「ポートレート」「夜景」「スポーツ」などのシーン選択も、「Nikon 1」シリーズではカメラまかせ。「おまかせシーン」に設定すると、「オート」「ポートレート」「風景」「クローズアップ」「夜景ポートレート」の五つのシーンを、カメラが自動判別する。

 「おまかせシーン」に設定すると、フォーカスモード、AFエリア、ホワイトバランス、ISO感度などもすべてカメラまかせになり、ユーザー自身が任意に設定することはできなくなる。

「おまかせシーン」で撮影。カメラが自動判定したシーンは「風景」になっていた

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「おまかせシーン」で撮影。絞りはほぼ開放のF3.8でこうしたシーンを撮ると、空と木の葉との境界に軸上色収差がみられる

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 つまり、「Nikon 1」シリーズは、「フォーカス、絞りとシャッタースピードなどの設定をあれこれ変えながら、凝った作品撮りができるカメラ」ではない。そういう意味では、ニコン一眼レフカメラのユーザーが期待していたであろうミラーレス一眼とは、まったく性格を異にするカメラだといえる。
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AFはたしかに速い! Fボタンは必要?



 「静止画」モードでは、電子シャッターを利用した高速連写機能「エレクトロニック(Hi)」が使える。まずメニュー画面で連写速度(10/30/60fps)を設定して、「単写」「連写」「エレクトロニック(Hi)」の選択を背面の「F」(フューチャー)ボタンで行う。

「エレクトロニック(Hi)」の高速連写、60fpsで撮影したカット。
飛んでいるハナアブがピタリと止まった

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 秒10コマでもAFが追随する(ただしAFエリアは中央1点固定)のは、コントラストAFのみの他社のミラーレス一眼では不可能だったことで、撮像素子でコントラストAFと位相差AFの両方を実現したアドバンストハイブリッドAFシステムを搭載した「Nikon 1」シリーズだからこそ実現した機能である。AFの合焦速度は、確かに速いと感じられた。

「エレクトロニック(Hi)」の高速連写、10fpsで撮影した連続カット。
10fpsではAF(中央1点)が機能するので、しっかり蝶にピントが合い続けた

 カメラを構えたときに親指で操作しやすい、いわばベストポジションにある「F」ボタンは、各撮影モードで特定の設定を選択するためのボタンとして、あらかじめ機能が固定されている。ユーザーが任意の機能や設定を割り当てて、ワンプッシュでそれを呼び出すファンクションボタンとしては使えない。「F」ボタンに割り当てられている機能は、そうそう頻繁に設定を変更する必要があるようにも思えない。メニューからの変更でも十分なはずだ。それよりも、「F」ボタンをファンクションボタンとして使えるほうがはるかに便利だと思うのだが……。

スローモーションが撮れる動画は面白い



 「動画」撮影モードには、フルHD動画の「HD動画」と、400fpsまたは1200fpsで録画する「スローモーション」がある。面白いのは間違いなく「スローモーション」だ。400fpsでは、1秒間を400コマで高速撮影(最大5秒間撮影)して、再生時にはそれを30コマ/秒で再生する。10倍以上に引き伸ばされた映像は、肉眼では絶対に見ることができない世界を見せてくれる。 

動画の「スローモーション」のフレームレート選択は、メニューで設定。
400fpsと1200fpsのどちらかが選べる

 ただし、「スローモーション」に設定すると、画面のアスペクト比は8:3に固定され、音声は録音されない。AFエリアも中央1点の固定となる。また、露出モードなどの変更もできなくなる。


400fpsの「スローモーション」動画サイズは640×240ピクセル


1200fpsの「スローモーション」動画サイズは320×120ピクセル

 なお、動画を「HD動画」で撮るか「スローモーション」で撮るのかの設定変更は、「F」ボタンで行う。一方、「HD動画」のフレームレートの変更や、「スローモーション」を400fpsまたは1200fpsのどちらで録画するかを設定するのは、メニュー画面の中だ。どうも設定項目があちこちに散逸している感じがして、必要な設定はすべて「F」ボタンから呼び出して操作できる、もしくはメニューの中ですべて完結、という具合にどちらかに統一したほうが、むしろわかりやすいのではないかと思えてならない。
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ベストショットはカメラに選んでもらう



 シャッター全押しの前後20カットを記録、その中からカメラが自動判定して5カットをセレクトして保存、さらにその5カットからベストショットの1カットをカメラがセレクトしてくれる──というのが「Nikon 1」シリーズのとっておきの撮影モード、「スマートフォトセレクター」だ。

「スマートフォトセレクター」で撮影して、カメラが選んで保存した5カット。
この中からカメラがベストショットに選んだのは、一番左の一枚だった

 カメラが選んだベストショットが気に入らなければ、再生時にユーザーが、保存されている他の4カットのうちのどれかをベストショットとして選び直すことができる。

「スマートフォトセレクター」で撮影後、カメラが選んだベストショットが気に入らなければ、再生時に保存している他の4カットからベストショットを選び直せる

 「スマートフォトセレクター」を使っていて、最も便利に感じたのが、野外での花の撮影だった。風に揺れる花を撮っていて、ブレていないベストの1カットをなんなくカメラが選んでくれるので、とにかく手間いらず。花の撮影のほか、動き回る小さな子どもやペットの撮影でも、「スマートフォトセレクター」はきっと重宝するはずだ。

 ただし、「スマートフォトセレクター」では、露出モードやAFエリアがすべてカメラまかせの「おまかせシーン」に固定されてしまう。これは困った。とくにAFエリアは、花のメシベにピントを合わせたいのに、花びら部分のAFエリアが選択されるなど、狙ったところのAFエリアがうまく選択されないことがたびたびあった。任意の1点を選べないまでも、せめて中央1点のAFエリアを使うように固定することができれば、もっとずっと便利に使える機能になるのではないかと思う。

撮影センスが問われ、再生にも制約がある「モーションスナップショット」



 もう一つ、オススメの撮影モードが「モーションスナップショット」だ。シャッターを全押しした瞬間の静止画と、その前後約1秒間の動画を同時に記録。再生時には、まず1秒の動画を約2.5秒に引き伸ばしたスローモーション再生を行い、動画再生が終わると決めの静止画を表示する。

「モーションスナップショット」のBGMの選択は、ボディ背面の「F」(フューチャー)ボタンで行う。用意されているBGMは4種類。ユーザーが任意に追加することはできない

 なかなか面白い機能だが、「モーションスナップショット」で鑑賞したくなるような映像を残すのは、けっこう大変かもしれない。ただ漫然と撮ったのでは、印象的な「モーションスナップショット」にはならない。どのような場面でこのモードを使うか、撮影者のセンスとクリエイティブ力が問われるところだ。


「モーションスナップショット」にトライ。印象的な作品にするのはけっこう難しい

 再生時にはカメラ内蔵のBGMがつくが、「スローモーション動画+決めの静止画+BGM」という「モーションスナップショット」本来のかたちで再生できるのは、「Nikon 1」シリーズのカメラ本体の液晶モニタか、ニコン純正の画像管理ソフト「ViewNX 2」、ニコンのオンラインアルバムサービス「My Picturetown」のいずれかかに限られる。

 どんなにカッコいい「モーションスナップショット」が撮れても、「My Picturetown」以外のSNSや動画共有サイトでは見てもらうことができないというのは、少々残念だ。
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しっかり高画質で、高感度もかなり健闘



 気になる「Nikon 1 J1」の画質は、あくまでも個人的な印象としてだが、1インチの撮像素子でもかなり健闘していて、マイクロフォーサーズと肩を並べるくらいの高画質を実現している。画面の周辺部で極端に画質が落ちる(像が流れる)傾向もみられず、画面全体に均質な画質を保っているのは、なかなかすばらしい。有効画素数は1010万画素と、最新のレンズ交換式カメラとしてはやや控えめだが、解像感はけっこう高く、色のりも比較的自然な感じで好感がもてるものだ。

明暗差のあるシーンでも破綻のない描写

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 シャープネスはやや強めな印象だが、全体的に画像処理エンジンをガンガンに働かせて見栄えよく絵づくりしているようには見えない。むしろ、レンズが捉えたそのままの映像に近い仕上げ方をしているような感じだ。これは、そもそもレンズ自体の素性がいいのだと思う。「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」は、見た目以上に描写力にすぐれた標準ズームレンズのようだ。レンズがいいから、無理な画像処理をしなくても十分に高画質を実現できるのだろう。
 

「1 NIKKOR VR 10-30mm f/3.5-5.6」は、透過光の微妙な陰影やハイライトの描写もきれいだ。絞りF5.6でもこれだけ寄ると背景がボケる。ただし、やや二線ボケの傾向があるようだ

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 高感度撮影時のノイズも、1インチの撮像素子にしてはよく抑えられている。ISO1600はシーンによってはけっこう使えるし、標準では最高感度となるISO3200も、このサイズの撮像素子にしてはかなり頑張っている。さすがにディテールはつぶれるが、嫌な感じの色ノイズが盛大に増えるといった感じにはならない。高感度の画質は、見方によってはマイクロフォーサーズよりも上、といってもいいだろう。

ISO3200の画像。ディテールはつぶれてしまっているが、嫌な感じの色ノイズは目立たない

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交換レンズなど、システムの充実に期待



 正直にいうと、ニコンのミラーレス一眼には多大な期待を寄せていたが、「Nikon 1」シリーズの発表には失望を感じていた。しかし、今回「Nikon 1 J1」を試用して、もしかするとその失望は間違っていたかもしれない、と思い始めている。

 撮っていると自然に「楽しい!」と思えてくるのだから、さすがはニコンが満を持して世に送り出したカメラだけのことはある。アドバンストハイブリッドAFシステム搭載の撮像素子の可能性や、「スマートフォトセレクター」の将来性など、実はとんでもない技術が盛り込まれているのではないか、という気もしている。

 そんなふうに考えながら、「Nikon 1 J1」を改めて手に取ると、これはもしかすると従来のミラーレス一眼の範疇には収まらないカメラなのかもしれないと思えてきた。一眼レフカメラの作法を基準に「Nikon 1」シリーズをみてしまうと、期待外れは否めないのだが、それとはまったく次元の違う新しいカメラとして捉えるべきなのだろう。だからこそニコンは、「アドバンストカメラ」と呼んでいるのではないだろうか。

 ただし、標準ズームレンズキットで使っている限りでは、あえてレンズ交換式にする必要性を感じなかったのも事実である。それだけに、交換レンズや周辺アクセサリの今後のラインアップ拡充が急がれる。9月21日に開催された「Nikon 1 V1」「Nikon 1 J1」の発表会では、マクロレンズや大口径単焦点レンズなど、交換レンズ7本を参考出品していた。タイにあるニコンの主力工場は洪水で操業停止に追い込まれたが、幸い「Nikon 1」シリーズは中国で生産されているというから、そうした交換レンズが続々登場してくることを大いに期待したい。(フリーライター・榎木秋彦)


■スペック詳細
Nikon 1 J1
有効画素数…1010万画素
撮像素子…13.2×8.8mmサイズCMOSセンサ
ISO感度…ISO100~3200
本体サイズ…約106.0×61.0×29.8mm
本体重量…約277g(バッテリ・SDメモリカードを含む、ボディキャップ除く)/約234g(本体のみ)