にわかビデオジョッキーとして、久方ぶりに心動かされるフルHD対応の映像アイテムが登場した。美しい映像作品作りにピッタリのキヤノン「EOS 5D MarkII」と、フルHD動画の編集もサクサクこなすハイパワーPC、日本Shuttle「H7 5800CX」だ。今回はこの2製品を使い、作品作りに挑戦してみたので、その模様をお届けしたい。

今回の製品が最高峰たる所以とは?



 筆者は仕事の傍らの趣味として、クラブなどで流す映像を制作するビデオジョッキー(VJ)、いわば「にわかVJ」として活動し、時折それが高じて映像制作の過程などを原稿にしたりもしている。今回、格好の題材としてチョイスしたのが「EOS 5D MarkII」と「H7 5800CX」だ。

EOS 5D MarkII

 「EOS 5D MarkII」についてはいまさら言うまでもないだろう。「EOSシリーズ」の製品として初めてフルハイビジョン(フルHD)画質での動画撮影が可能なモデルで、35mmフルサイズセンサーの描写力ともあいまって、その動画撮影性能の高さは各所で絶賛されている。

今回の撮影では3本のレンズを使用した
(左から)「EF15mm F2.8 フィッシュアイ」「EF50mm F2.5 コンパクトマクロ」
「EF16-35mm F2.8L II USM」

 一方、日本Shuttleの「H7 5800CX」については聞き覚えがないかもしれない。実はこの製品、グラフィックデザイナーやソフト開発者向けに開発されたプロ仕様のPCなのだ。今回この製品をチョイスした理由は、「EOS 5D MarkII」で撮影したフルHD動画を思う存分加工し、こだわりの作品を作りたかったからだ。もちろんその仕様はハイスペックの一言につきる。

「H7 5800CX」と、同機が搭載するGPU「NVIDIA Quadro CX」

 主なところでは、CPUにインテル Core i7(2.66GHz)、チップセットにインテル X58 Express、メモリはDDR3 3GB、そしてGPUがNVIDIA Quadro CXなど。そしてこのQuadro CXが実は今回のキモになっている。その理由はグラフィックメモリが1.5GBもあること。グラフィックメモリとは画像の描画のために使用されるメモリ容量のことで、この値が大きいほど動画再生やソフト上での編集が滑らかに行える。一般的なGPUのグラフィックメモリが256MBや512MBであることを考えると、その凄さを想像してもらえるだろう。

「EOS 5D Mark II」の描写力に圧倒された動画撮影



 とりあえずは「EOS 5D Mark II」の実力を確かめるべく、フルハイビジョン画質での動画撮影をしてみようと、雨上がりの神社に行って木々を撮影。これが息を呑む美しさだった。


 新緑の瑞々しい青さを見事に表現している。1920×1080ピクセルという解像度はもちろんのこと、色合いや色調が目で見たものに近く、非常にリアルだ。この神社ではもう1つ、被写界深度の浅さを活かした画作り試してみたのだが、これが一眼レフならではといえる動画になった。


 撮影中にフォーカスリングを動かし、ピント位置を手前の葉から奥の葉に移動させた。このテクニックを使えば、映像の中で注目させたいものを自在にコントロールすることができる。35mmフルサイズセンサーと明るいレンズによる被写界深度の浅さがこうした表現を可能にした。一般向けに販売されている民生用のデジタルビデオカメラでは、ここまで「ボケ」を使った映像は撮れない。

 「EOS 5D Mark II」の作り出す世界に驚きつつ、街に出て撮影を続行。今度はレンズを魚眼に換え、エレベーターの中から外を上向きに撮影してみる。


 何も加工しなくても美しく、興奮する映像が撮れた。ここで魚眼レンズのすごさを目の当たりにする。これもデジタルビデオカメラなどではなかなか撮ることが出来ない。コンバージョンレンズだとどうしてもケラレが発生したり、意図しないゆがみが生じたりしてしまうからだ。

 この日は撮影途中で雨が降ってきてしまい、止むまで待っていたら夜になったので、高層ビルを意識して都庁前へ移動。レンズはやはり魚眼を使用している。映像の鮮明さとスピード感に圧倒される。可能であれば、是非ともこの動画はフルスクリーンでご覧いただきたい。


いよいよ「H7 5800CX」の出番 グラフィックメモリ1.5GBの実力とは?



 ここからは動画の加工をしながら記事を進めていく。なお、動画加工にはアドビシステムズの「After Effects CS4」を利用し、すべてフォト-JPEG圧縮でフレームレートは29.97、カラーの中品質で書き出している。

 まずはエレベータの動画だが、面白い映像ではあるものの、VJ用の映像としてはもう少しパンチが欲しいところ。そこで、動画の両端をくっつけて16:9の四角い動画を円形に無理やり変形させる極座標エフェクトをかけてみる。さらにミラーエフェクトをかけた上で、同じ動画を拡大・逆再生・元の動画にかぶせるなど様々なエフェクトをかける。そして最終的にグローエフェクトで味付けする。

 ここまで作業をしていて気付いたのだが、編集時の動作が非常に滑らかで、ストレスがほとんどない。試しに同じ条件で動画を用意し社内のマシンで再生してみたのだが、15コマ(0.5秒)もいかないところで固まり、強制終了してしまった。その差を下の動画で確認して欲しい



 ちなみに社内マシンの仕様は、CPUがCore 2 Duo U7700(1.33GHz)、メモリ2GBで、GPUは搭載していない。やはりフルHD画質の動画は、美しい分PCにとっては相当負荷が高いということだろう。この後もいろいろとエフェクトをかけ、最終的な完成形が以下の動画だ。


 続いて都庁前で撮影した動画にも加工を行う。スピード感を更に出すためにブラー(放射状)エフェクトをかけて光らせる。この動画を3つつなぎ合わせて、エンドレス素材にして完成。正直このサイズでブラー(放射状)+グローは不安だったが難無く書き出し完了。恐るべしCore i7+Quadro CXといったところだ。


 さて、今回は動画を元にVJ素材を作ってみたが、3Dレイヤーを使用するために静止画を元に素材を作ってみる。ルミカライトを使用して何本か撮影したがいまいちなため、撮影しておいた1枚から。


 色範囲で背景を抜き、それぞれを8つの角度で並べてその中にソフト内の擬似カメラを通した。静止画の元サイズは1.97MB(4080×2720ピクセル)、全部で12枚を使用。書き出しの前に擬似カメラを随分と動かしたのだが、その動きがかなりきびきびしていたのでそちらも掲載する。


 そして、完成した動画はこれだ。書き出しまでは約3分足らずと非常に短かった。


 さて、一通りフルHDの動画を撮影し、編集してきたが最終的な感想を。まず「EOS 5D Mark II」だが、フルHD動画は通常のデジタルビデオカメラ以上の美しい動画が撮影できることは間違いない。しかしこれを扱うのは非常に難しいというのが筆者の本音。

 まず難しいのがピントだ。動画撮影を始める前にAF(オートフォーカス)機能でピントを合わせておくことはできるので、止まっている被写体なら問題ない。しかし、動画撮影中にはAFが機能しない。そのため、被写体が動いてしまったら、マニュアルでピントを合わなおす必要がある。さらに、動き続ける被写体はもっと難しい。ハリウッド映画では、ピント合わせだけの専門職も存在すると聞くが、常にピントが合った状態を手動で維持するのは非常に難しい。

 次に、最大で12分までしか撮影できない撮影時間だ。編集を前提としてカット割りを決めて映像作品をつくっていく場合なら、1カット12分もあれば十分だろう。しかし、イベントなどの撮影で長時間回しっぱなしにすることはできない。こうした用途なら、素直に連続して長時間撮れる通常のデジタルビデオカメラを使ったほうがよさそうだ。

 おそらく上記2つが「EOS 5D Mark II」での動画撮影における難しいポイントだが、間違いなくそれを上回るだけの魅力を備えた一台だ。交換レンズ、印象的なシーン作り、そして高い描写力。今後は間違いなくデジタル一眼でのフルHD動画撮影が主流になる。その中でも「EOS 5D Mark II」は光る存在になりうるだろう。

 次に日本Shuttleの「H7 5800CX」だが、編集作業中は圧倒的なパフォーマンスを示してくれた。今回はアドビの「After Effects」しか使わなかったが、フルHD動画をまるでSD画質の動画のような手軽さで扱うことができるのは圧巻だった。

 実際、VJシーンでは少しずつHD画質を求める声が大きくなっている。このマシンは是非欲しいところだ。欲を言えばメモリをもう少し積めれば良かった。マイクロソフトの次期OS「Windows7」では現在の主流である32bit版よりもメモリの認識キャパシティが大きい64bit版が主戦場になることも十分考えられるので、今後に期待というところだろう。(BCN・鼓金時)