ヤマハが開発した新感覚の電子楽器「TENORI-ON(テノリオン)」。5月12日に同社の直販サイト限定で発売したところ、12万1000円と高価な製品にもかかわらず翌日には初回分を完売したという。どうやらひそかなブームになっているようだ。そこで、「音楽の知識がなくても演奏できる」という謳い文句を信じ、楽器演奏歴0年の筆者が「にわか音楽家」に挑戦した。


●練習は必要ナシ!? ポチポチとボタンを押せば音が鳴る

 まず変わっているのがそのデザイン。一目見て楽器だとわかる人はまずいないだろう。床に置いてある「TENORI-ON」を、何も知らない人が見つけたら、足ツボマッサージ機と勘違いするかもしれない。縦横約20cmの正方形のフレームの内側に、白色LEDを内蔵したボタンが縦横各16個ずつ配置されている。このボタンをポチポチと押していけば音が鳴り、作曲や演奏ができる仕組みだ。

 とりあえず押せば音が鳴るので、バイオリンのように音を出すまで一苦労、ということはない。また、ボタンを押すとLEDが光って視覚的にも楽しめる。なんとこのLED、律儀に裏にもついていて、両面が同じように光るようになっている。とにかく、これまで誰も見たこともない楽器であることは間違いない。高価なだけに、プロの音楽家やDJなどの専門家向けの電子楽器なのかと思いきや、そうではないという。ヤマハ広報によるとメインターゲットは「非楽器ユーザー」なのだそうだ。

 とにかく習うよりも慣れろ。さっそくポチポチとボタンを押してみた。本体下側面にあるスイッチを入れるとLEDが光りだす。ランダムに点滅するのではなく、縦1列に4つのボタンが光り、この光の棒が左から右へ流れていく。この光の棒をヤマハは「ループインジケーター」と呼んでおり、時間の流れやリズムを表している。


 ボタンを適当に押し、LEDを点灯させてみる。ボタンは軽く触るだけでは点灯しないので、1秒ほど、ぐっと押し込んだほうがいいようだ。ボタンを押した時点では音は鳴らないが、「ループインジケーター」が点灯したボタンにかかるとスピーカーから音が出る。本体に内蔵するピーカーの出力は1W。音はやや小さい。ヘッドホンか外付けのアンプがついたスピーカーを使用したほうが楽しめそうだ。

 ボタンの縦の位置で音程をコントロールする。パネルの上部が高い音、下部が低い音。下から上に向かって「ドレミファ……」と設定されていることが分かる。

●どうやって演奏するの? 6つの演奏モードを使いこなせ!

 とりあえず音が鳴ることは分かったが、音楽にはほど遠い。次に「TENORI-ON」に登録されている演奏モードを確認してみた。「TENORI-ON」には、「Score(スコア)」「Random(ランダム)」「Draw(ドロー)」「Bounce(バウンス)」「Push(プッシュ)」「Solo(ソロ)」の6種類の演奏モードが登録されている。

 最初に紹介した、「ループインジケーター」が点灯したボタンに当たると音が鳴るのは「Score」モードでの演奏。「Random」は点灯させたボタンが繰り返し鳴る。別のボタンを点灯させると、点灯させた順に音が鳴る。「Score」モードとはまったく違ったタイミングで音が鳴る上、LEDの光を見ているとボタン同士がキャッチボールをしているように見える。


 「Draw」モードは点灯させたボタンや、連続的に指でなぞった演奏動作を一定時間記憶し、記憶した通りに再生していくモード。「Bounce」モードは、点灯させたボタンから光が落下し、光が底辺にぶつかるたびに音が鳴る。床の上でボールがバウンドしているような感覚だ。

 「Push」モードはボタンを押している間に音が鳴る。また、押したままにしていると徐々に音と光が変化する。「Solo」モードはボタンを押している間、繰り返し音が鳴る。ボタンを押す位置が上へ行くほど発音間隔は短く、下へ行くほど長くなるという特徴がある。

 なお、ボタンを押し間違えてしまった場合は、点灯しているボタンを長押しすれば解除される。また、本体上部のクリアボタンを押せば、設定したボタンが「レイヤー」ごとに解除される。


●レイヤーを使いこなし、「音」を「音楽」に進化させる

 「レイヤー」という言葉が出てきたが、これが「TENORI-ON」の特徴のひとつ。「レイヤー」とはグラフィックソフトを使っているとよく出てくる用語で、「描画用の透明なシート」と説明されることが多い。「TENORI-ON」では16のレイヤーが利用できる。例えば、最初のレイヤーにリズム系の音、2つ目のレイヤーにベース系の音、3つ目のレイヤーにメロディー、といった風に使う。


 曲を作るときにはレイヤーごとに操作して、いざ演奏というときにすべてのレイヤーを同時に鳴らして曲の完成、というわけだ。同じように電子音楽を記録して再生する「シーケンサー」や、プロがレコーディングなどで使うテープレコーダーなどで「トラック」といっているものと、ほぼ同じものだ。

 「TENORI-ON」のレイヤーは、あらかじめ演奏モードが設定されている。1-7のレイヤーは「Score」モード、8-11のレイヤーは「Random」モードだ。また、1枚のレイヤーには1つの音色しか設定できないから、例えばピアノとギターの音を重ねる場合は、ピアノとギターを別のレイヤーにしなければならない。

 使用できる音色は、ピアノやギターなどの楽器系が239種類、ドラム系が14種類の計253種類。使っていると、ベースになる音が少々少ないような気がしたが、物足りなくなったら、WAVEまたはAIFFフォーマットの音源をSDメモリーカード経由で追加することもできる。


●演奏にチャレンジ まったくの音楽初心者でも「それっぽく」!?

 さて、実際に演奏してみよう。まずはメロディーラインを設定。本格的な作曲ができるわけがないので、子どもがピアノで遊ぶ感覚で「ドレミファ……」と設定してみた。これだけでは寂しいので、和音を作る感じで、同じタイミングで違う音色を重ねていく。音が重なりすぎて聴きにくくなったら、ボタンを長押しして音を解除し、また、好みの音色を探しながら加えていく。最後にカスタネットのような音でリズムを加えてみた。

 最初、「Score」モードや「Random」モードなど、さまざまな演奏モードを組み合わせてみたが、「Random」モードは「Score」モードとテンポが異なるため、重ねれば重ねるほど「雑音」になってしまった。初心者にはさまざまな演奏モードを組み合わせて演奏するのは少し難しいようだ。もちろん効果を狙って1音だけ違うテンポの音を加えてみるのも面白いかもしれない。この失敗を踏まえて「Score」モードのみで演奏したところ、ちゃんとした音楽にはほど遠いが、まったくの初心者でもそれっぽく仕上がった。


 このちょっと変わった楽器だが、変わっているのは演奏方法だけではない。発表の場もちょっと変わっている。これまでは楽器を持ち寄ってスタジオで演奏したり、路上ライブをしていたものが、「TENORI-ON」は演奏している映像を「Youtube」などの動画共有サイトに上げて「発表」しているユーザーが多い。

 また、発表しているのは、完成作品だけではなく、操作方法をレクチャーするものや、凝ったワンフレーズだけなどさまざま。肩ひじを張らずに演奏できる「TENORI-ON」の登場で、新しい音楽の楽しみ方が生まれそうだ。(BCN・山下彰子)



■主なスペック
本体サイズ=幅205×奥行き205×高さ32mm
重量=約700g
対応OS=Windows版・Windows Vista/XP
Macintosh版・Mac OS X(10.3.9)以上
カードスロット=SDメモリーカード
演奏モード=Score/Random/Draw/Bounce/Push/Solo
初期音源=253種
電源=単3乾電池×6本、もしくはACアダプタ