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カメラ2強なぜ参入? フルサイズミラーレス、崩れるソニー独占体制

時事ネタ

2018/08/12 12:15

 この秋、カメラのトップ2社、キヤノンとニコンは35mmフルサイズの画像センサーを搭載するミラーレス一眼を発表するものと見られている。ニコンはすでにサイト上でティザー広告を開始。新製品のシルエットを見せながら、8月23日に発表会を行うことを告知している。

 一方、デジカメ市場でトップシェアを走るキヤノンも昨年、デジタル一眼最大のブランド「EOS Kiss」をミラーレス一眼に投入。軸足を一眼レフからミラーレスに移した。今年は隔年9月にドイツで開催される、世界最大のカメラの見本市、フォトキナ開催の年。そして、来年から毎年5月開催へと開催形態が変わる大きな節目の年でもある。ニコンもキヤノンもこのフォトキナを前に揃ってフルサイズのミラーレス一眼に参入するのでは、との見方が有力だ。一眼レフでは圧倒的な存在感を示すトップ2社がなぜ、フルサイズミラーレスに参入するのか。
 
ニコンがWebサイトで展開しているティザー広告では、新しいミラーレス一眼のシルエットを公開。
フルサイズセンサーに合わせ大きなマウント径が採用されている模様

7年間で世界出荷台数は5分の1に縮小、今年もマイナス成長の予測

 デジカメ市場は今、まるで底なし沼にはまったかのような苦しみにあえいでいる。カメラ映像機器工業会(CIPA)は2月、2017年のデジカメの出荷台数が7年ぶりに増加に転じたと発表。これを受け「インスタ映え」需要でデジカメ復活かと報じるメディアもあった。しかし、これは誤りだ。熊本地震の影響でソニーのセンサー工場が被災するなどでカメラの生産が大幅に落ち込んだ2016年。生産が正常化した2017年は出荷が大きく回復すべき局面にあった。しかし、実際はわずか3.3%増に「とどまった」。決して楽観的な数字ではない。2010年の最盛期に記録した世界出荷台数1億2000万台規模から2017年は2500万台まで5分の1に縮小している事実には変わりなく、縮小傾向はまだ続いている。実際CIPAでも2018年の予測は2017年比で6.4%減とマイナス成長を見込んでいるほどだ。
 

 BCNの実売統計「BCNランキング」でみた、デジカメ市場の直近の不振はさらに深刻だ。今年7月、販売台数前年比で81.6%、金額で77.7%と3割減の水準が目前。レンズ一体型のコンパクトは前年比で86.5%、82.7%と2ケタ割れだが、これはまだましな方。レンズ交換型に至っては台数71.9%、金額74.8%と、すでに前年比で3割減水準に突入しつつある。

 特に重傷なのが一眼レフだ。前年に比べ台数62.9%、金額61.2%と4割減の水準だ。一部のハイエンド需要を残して一眼レフは終息へ向かい始めている。カメラ市場で唯一とも言える頼みの綱はミラーレス一眼。キヤノンが満を持して投入したEOS Kiss初のミラーレスモデルが好調で市場をけん引し、3月~6月までの4か月は台数、金額とも前年を上回っていた。しかし7月には息切れし台数80.0%、金額も90.0%と5か月ぶりにそろって前年を割れた。
 
ほぼソニー独占状態のフルサイズミラーレス一眼市場。もっとも売れているのが「α7 III」。
完成度の高さが評判を呼んでいる

 デジカメ市場を8年間も苦しめている不振の主な要因は、この間およそ9割も減少したコンパクト型。一方レンズ交換型はこの間、1割減程の縮小でとどまっており、なんとか踏ん張ってきた。その構図も足元から崩れ始めているわけだ。

 ただ、まだ伸びているセクターがある。それがフルサイズのミラーレス一眼だ。この分野はソニーの独壇場。一部ライカの製品もあるが、ソニーのシェアは99.8%と独占状態だ。同社は2013年に世界初のフルサイズミラーレス一眼、初代「α7」をリリース。以来改良を続け、3代目にあたる「α7 III」シリーズは、ピントあわせのスピードも改善され画質も良好で特に完成度が高まったと評判だ。カメラ店の店頭では、既存の一眼レフシステムから乗り換えるユーザーが増えたとの声も聞かれる。4240万画素の「α7R III」もラインアップし、風景写真などに威力を発揮する高画素数モデルニーズに応えているのも特徴的だ。
 

 レンズ交換型デジカメのセクター別販売台数の伸びを見ると、伸びているのはミラーレス一眼のみ。そのうち、7月でも170.4%と大きな伸びを維持しているのはフルサイズセンサー搭載のミラーレス一眼だけという状況だ。「EOS Kiss M」の好調でAPS-Cセンサー搭載モデルは伸びている。販売台数構成比は31.0%と38.5%のAPS-C一眼レフに迫る勢いだ。しかし勢いはやや弱まってきた。税別の平均単価も8万円弱で、それほどうまみがある市場ではない。

 一方、ソニー1人勝ちのフルサイズミラーレス市場は20万円を超える平均単価を維持しており、ここで成功すれば、収益拡大にも大きく寄与しそうだ。こうした状況を前に、キヤノンとニコンは市場参入することになったと見られる。一眼レフでは大きな実績を持つ両社だけに、いずれの新製品にも大きな期待が集まる。市場も活性化し、不振が続くデジカメ市場を活気づかせる強烈なカンフル剤になる可能性も高い。
 

 ただ、忘れてはならないのはスマートフォン(スマホ)の台頭だ。世界市場で年間販売台数14億台とも言われるスマホに対し、デジカメは3000万台足らず。まさに桁違いの市場ながら、スマホのカメラとしての存在感が高まっている。特に先頃アップルを抜いて世界シェア2位になったと報道された中国のファーウェイはその急先鋒だ。35mmフィルムカメラを産んだカメラの老舗ライカと組んで本質的な写真の画質向上に取り組みながら、最大3つのカメラユニットを使ったりAIを活用したりと、写真撮影の体験を根本から覆すような挑戦を続けている。市場の縮小を終わらせ継続的な拡大基調に反転させるには、カメラメーカーこそ、カメラに対する本質的な革新への挑戦が必要だ。(BCN・道越一郎)

*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコン本体、デジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割(パソコンの場合)をカバーしています。